豊田市美術館は愛知県豊田市街の高台にある。美術館建築の第一人者・谷口吉生設計の建築と、世界各地で景観づくりを手がけてきたランドスケープアーキテクトのピーター・ウォーカー手がける庭園が相まって、敷地全体はなんともクールでスタイリッシュ。地域屈指の「映え」スポットとして名高い。
同館での現在の展示も、負けず知的かつ空間全体のカッコよさが際立つものだ。「ボイス+パレルモ」展である。
「アートが社会をも変える」と唱えたボイス
同展は20世紀後半にドイツを拠点として活動したアーティスト、ヨーゼフ・ボイスとブリンキー・パレルモによる「二人展」のかたちをとっている。
ヨーゼフ・ボイスは、20世紀後半における最重要アーティストのひとりと目される存在。とりわけ1960年代にデュッセルドルフ芸術アカデミー教授に就任してから作家活動を活発化させ、脂肪やフェルトといった個性的な素材を用いたオブジェや、「アクション」と呼ばれる対話・議論・パフォーマンス、日々描き続けたドローイングなどで知られる。
彼のあらゆる作品と言動は一貫した思想のもとにある。みずから「社会彫塑」と名付けた考え方だ。
人の営みすべてを彫塑行為、すなわち芸術的営為だと捉えて、アートの概念を単なるモノづくりに留めずどこまでも拡張したのだった。つまりは、
「これもアートだし、あれもアート。目に映るすべてのものはアートだし、見えない思考だってアートになり得る」
と考えたのである。
ボイスは教育者としても名高く、彼のもとからたくさんのアーティストが羽ばたいていった。そのひとりが、ブリンキー・パレルモだ。
もの静かで調和に満ちた、抽象的な絵画作品を多く残したパレルモは、作風としては師たるボイスとさほど被るところがない。
けれど、枠やカンヴァスといった素材にまで遡って絵画を捉え直し、絵画とは何だろう、その成立要件はどこに? と根源的な思考をめぐらせるところは同じ。
創作への姿勢や取り組み方が、さすが似通っているのだ。