「視覚の歓び」に満ちたパレルモ
今展では主にボイスとパレルモの、1960~70年代の創作がまとめて紹介されている。
ボイスの《ユーラシアの杖》は、フェルトで包まれた木材が数本壁に立てかけられ、一部には銅製の棒が添えられている。
これがいったい何なのか? いくらしげしげと眺めても、正直なところどうにもよくわからない。
とっかかりを探すとすれば、タイトルにとられている「ユーラシア」とは、ボイスがよく言及した語。西のヨーロッパと東のアジアという、様相の異なる二つの文化を包摂するのがユーラシア大陸であって、この東西をいかに連関させるかはボイスの関心事だった。
ということは、この目の前に置かれた長い木材と棒は、ユーラシアを貫きつなげるための「杖」とでも解釈すればいいか。いや、それも単なる見方のひとつ。観た人が考えをめぐらせ、自分の内側から思いや言葉が出てくればいいだろうし、それこそがボイスの狙いと願いだったと思われる。
「視覚の歓び」に満ちたパレルモ
パレルモの作品のほうはどれも、シンプルな形態と色を持っていて、視覚的な歓びがいっそう強く感じられる。
既製品の布を縫い合わせて色面を生み出す「布絵画」シリーズは、鮮やかな色合いが目に快く、観る側の脳裏に不思議なほどたくさんのものごとを思い起こさせる。たとえば青と緑を組み合わせた一枚は、みごとな風景画に見えてしかたない。
アルミニウムの板に何度も絵の具を塗り重ねていく「金属絵画」シリーズも印象に残る。小さい金属の画面に、頼りなさげに色が定着されていて、そこはかとなく儚さが漂う。
そのうちのひとつ、黄色に彩られた画面が横に並ぶ《無題》は、眺めていると始まりも終わりもなく、どこまでも色を塗るという行為が続いていくようで、気が遠くなってくる。
ボイスとパレルモ、どちらの作品もなかなか難解な雰囲気が漂って、意味を探ろうとすると頭に「はてなマーク」がたくさん浮かんでしまいそう。でも、どの展示空間からも何らかの緊張感はヒシヒシと伝わってくる。その清澄で張り詰めた空気に浸ること自体が、非日常的でなんとも愉しい。
整った環境に身を置いて、ふだん視界に入るものとは毛色の違ったモノを眺め、耳を傾け、ぼんやり考えをめぐらす。そうしていると、自分がちょっと拡張されたような、不思議な感覚に襲われる。
ボイスの言っていた「社会彫塑」とは、こういう変化が積み重なって起こるものかなと、すこしだけ彼の言っていたことに対して実感が湧いてくるのだった。
(ヘッダー画像
左:ヨーゼフ・ボイス《そして我々の中で…我々の下で…大地は下に》1965年のアクション
bpk | Sprengel Museum Hannover, Archiv Heinrich Riebesehl, Leihgabe Land Niedersachsen / Heinrich Riebesehl / distributed by AMF
VG Bild-Kunst, Bonn & JASPAR, Tokyo, 2021 E4044
右:ブリンキー・パレルモ、1973年ハンブルクにて bpk | Angelika Platen / distributed by AMF
VG Bild-Kunst, Bonn & JASPAR, Tokyo, 2021 E4044)