今日5月9日から大相撲の夏場所が開幕する。連日熱い取り組みが期待される一方で、今年3月の春場所後には痛ましい事故も起きた。三段目の力士だった響龍が、4月28日、急性呼吸不全のため東京都内の病院で死去したのだ。響龍は春場所13日目にすくい投げで敗れた際、頭部・頸部を土俵に強打。そのまま動けなくなり、救急搬送され入院していた。

亡くなった三段目力士・響龍

 大相撲同様、激しいコンタクトスポーツであるアメリカンフットボールの本場アメリカでは、10年以上前から試合中・練習中の頭部や頸部のアクシデントに関して非常に厳格な措置が取られるようになっている。その専門家はこの事故をどう見たのか。スタンフォード大アメリカンフットボール部コーチの河田剛さんに聞いた。

◆◆◆

ADVERTISEMENT

 今回の力士の事故に関しては、映像で取り組みとその後の処置を見ました。

 もちろん実際の現場にいたわけではないので、細かな部分にまでは言及できません。ただ、大相撲と同じような激しいコンタクトスポーツであるアメリカンフットボールに携わる者としては、いくつか非常に気になったポイントがありました。

スタンフォード大アメフト部でコーチを務める河田氏

ポイント1 土俵周りに医療関係者が配備されていなかった

 まず1番は、土俵周りに医療関係者が配備されていなかったことです。大相撲という危険性の高いコンタクトが日常茶飯事である競技にもかかわらず、その現場の周囲に医療関係者が立ち会っていないというのは驚きを隠せませんでした。

 アメリカンフットボールの場合、NFLでもカレッジでもゲームはもちろん、日常の練習でも医療関係者の立ち合いが義務付けられています。試合ともなれば1人ではなく10人近い専門家がスタンバイしているのが普通です。その理由は各々に専門があり、アクシデントが起きた際に例えば肩のケガなのか、膝のケガなのか、それとも脳震盪なのかによって対応が全く違ってくるからです。

 特に頭部や頸部へのケガの場合、確認しなければならない要素が非常に多いです。呼吸、脈拍、手足の麻痺、意識レベル…生死に直結するケガに成り得るものですから、その確認はとても大切です。中でも意識レベルの確認の際に最も重要なのが、「複数の医療関係者で意識確認を行う」ことだと言われています。仮に誰か1人が「大丈夫だ」と言っても、それだけでは危険性が残る。ダブルチェック、トリプルチェックが重要なのです。そこで一定レベル以上の意識障害がある場合は、首から上をしっかりと固定したうえで、絶対に大きく動かさないように気をつけながら担架で救急車に運び、病院に搬送することになります。

 アメリカンフットボールの試合ではスタジアムに救急車の待機も義務付けられていて、危険な事故の場合はすぐに病院へ搬送できるようにスタンバイしている。もちろん競技ごとで予算や規模の違いはあるでしょうが、少なくとも興行として成立しているプロスポーツである以上は、そのくらいの備えは必要であるように感じます。