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「大森さんが‟デブの嫌なヤツ”から‟人情に篤い優しい人”になったのが気になっていた」 漫画家・伊藤理佐の新作、‟ブラック度”が濃くなったワケ

伊藤理佐インタビュー#2

2021/05/16
note

──「ネタ」はどうやって考えているのですか。

伊藤 探してみるとネタって結構転がっているので、拾ってくることが多いですね。同級生の話やテレビで見たこと、自分に起こった話などを「拾って」きて「こうしたら使えるかな」みたいな形でストーリーにしています。

 旅先でドラマチックな展開があって、その時の経験を基に……みたいな話ができればいいんですけど、逆に旅先なんかでは落ちていないんですよ。家の近所の道ばたの方が、ネタは転がっているような気がします。

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 もともと出不精で、自分の半径2.5メートル圏内のことくらいまでしか把握できないんです、私。油断すると、与党と野党もごっちゃになるし、ましてアメリカ大統領選なんて、党の名前も選挙のしくみもよくわからない。

 この間、ぼんやり月を見ていて、初めて球体に見えたんです。もちろん、月が球体という事実は知っているんですが、普段月なんて意識して見ないじゃないですか。その時は「月って球体なんだ」と、新しい発見をしたようで、ちょっと感動しました。

──『おいおいピータン!!』で描かれている何気ない日常の原点は、伊藤さんの「半径2.5メートル圏内」ということなんですね。ご主人の吉田戦車さんも同業なので、ネタの奪い合いになりませんか。

伊藤 なりますよ、特に子どもネタは。ただ、うちは「先にネタ帳に書いた方が勝ち」というルールがあるんです。だから、「これ、おもしろい!」と思ったら、ダッシュして自分のネタ帳に書く。最近はズルして、台所のカレンダーにパパッとメモして携帯で写真に撮り、「先に書いたもんね」と見せて「権利」を入手したりしています。

 

──ご夫婦とも漫画家ですが、お互いの才能に嫉妬したり、仕事の妨げになったりという「ブラック」な面もあるのでは。

伊藤 私が圧倒的に「漫画家・吉田戦車」のファンなので、嫉妬するということはありませんが、ずっと一緒にいると(ケンカをしても)「まあでもお互い(結婚が)2回目なのでうまくやりましょう」とか「その日のうちに謝りましょう」などと言ってくるので、そこで和解しています。邪悪でしょ?(笑)

──大森さんのように、伊藤さんの好きな料理を作ってくれて仲直り、ということもありますか。

伊藤 ないですね。でも、私が好きなはじっこは必ずくれます。

 私、料理のはじっこが好きなんですよ。チャーシュー、パン、イカ、まぐろ、太巻き……。全部はじっこが好きなので、はじっこは私に回ってきます。ヨシダサンはもちろん、娘もはじっこを私にくれるので、それは毎回うれしく思っています。

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