食と恋を描いて愛され続けるオムニバス・ショート『おいピータン!!』(講談社)。その続編の『おいおいピータン!!』では、夫婦となった主人公の大森さんと渡辺さんに加え、新しい飼い猫・トラやほかのご近所さんなども登場して、ますますパワーアップしている。作者の伊藤理佐さんに、制作の裏話から同じ漫画家の夫・吉田戦車さんとの日常生活についてなど、気になるあれこれを聞いた。(全2回の1回目。後編を読む)
(取材・構成:相澤洋美、撮影:文藝春秋/鈴木七絵)
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──『おいおいピータン!!』は、20年続いた人気漫画『おいピータン!!』の続編です。主人公の大森さんは、「男前のデブ」として少女漫画界の真イケメンに君臨していますが、最初はまったく違うキャラクター設定だったとか。
伊藤 この「大森さん」はもともと、『おいピータン!!』が始まる前の作品によく登場していた、「ぬらっとしたデブの嫌なヤツ」という設定の、名前もない脇役だったんですよ。飲み屋のカウンターで人の悪口を言いながら酒を飲んでいるような人で、いつも「ピータン豆腐」を頼むことから「ピータン」というあだ名で呼ばれていました。よく登場するうちに「大森さん」という名前がついて、そこからキャラが細かくできていった感じです。
──なぜその「嫌なヤツ」が主人公に格上げされたのですか。
伊藤 嫌なヤツとして描き始めたんですけど、描いているうちにだんだん憎めないヤツになっていったんです。当時の担当さんが、大森さんの食い意地と食べっぷりのよさを気に入って、「あの“ピータン”を主人公っぽくして、食しばりで作品つくりましょう」と熱心に言ってくださったので、あまり考えずに「いいですよ」とはじめてしまいました。
『おいピータン!!』というタイトルもその担当さんの発案で、「おいしい」と「ピータン」の組み合わせなんです。
──『おいピータン!!』の「おい」は「おいしい」なんですね。
伊藤 だっせえタイトル!と最初は思ったのですが(笑)、ほかにいい案がなかったし、それに、そんなに長く続かないだろうと思ったので、このタイトルに決めたんですけど、まさか、こんなに長く連載が続くとは……。
──今回のタイトルは、「おいおい」と「おい」がダブルになりました。「追々」という意味ですか。
伊藤 「おいおい……」というため息というか、「老いる」を2回重ねて入れているというか。そんなイメージです。
長年描いてきたので、作品が自分と共に歳を取ってきているんですよね。昔はもうちょっと性的なシーンも多く描いていたように思うんですが、今は自分が恋愛の最前線に立っていないので、手が触れるだけでドキドキするような初恋ものや、バリバリの恋愛ものは描けません。むしろ、介護ものの方が自分の感覚に近くなってきたかなという実感もあります。