──長年読み続けてきた読者も伊藤さんと同じように歳を重ねています。「初恋」より「老い」の方がテーマとして共感しやすいかもしれません。
伊藤 そうですね、読者のみなさんも私と同じように「おいおい」なので、キュンキュンするような恋愛ものより、じわじわくる日常ものの方が共感してもらえるのではないかと思っています。
若い頃って、アイドルとか俳優は自分にとっての「恋愛対象」だったじゃないですか。でもだんだん歳を重ねると、「(自分が)もっと若くないと」とか、「もっと美人じゃないと」と、自分を「別人」として考えないと、つじつまがあわなくなってきますよね。まったくあり得ない妄想だとつまらないので、「死んだ姉さんに似ている」とか「すごい年上好き」とか妄想を広げて。そこからさらに歳を取ると、アイドルや若手俳優を「愛でる対象」として遠くから眺めて満足するようになりますよね。それもある意味「恋愛」の進化形だと思っています。
で、それが恋愛の最終形かと思ったら、最近若手アイドルグループを見た時に「この子が息子だったら」と妄想して興奮してしまって……。「恋愛」にはさらに新しい感情があるんだなと知りました。
──『おいおいピータン!!』は恋愛漫画ですが、大森さんと渡辺さんのセックスシーンは出てきません。これもある意味「恋愛表現の進化形」と言えるのでは。
伊藤 連載している雑誌の性質もありますが、自分の中で「このシリーズでセックスシーンを描くのは違う」という思いがあるように思います。そもそも『おいおいピータン!!』は、恋愛以前に、毎回なんらかの形で食に関係するものを描くという「食しばり」があるんです。恋愛はあくまで「食」の延長線上で派生するものとして描いているので、恋愛がメインの漫画とはそこが違うのかもしれません。
23年間連載していますが、別の雑誌の担当さんからは「『おいピータン!!』が食しばりだって、いままで知りませんでした」と言われるくらい、ゆるい「しばり」ですけど(笑)。「毎回食べ物が出てきているんですね!」と、わざわざ電話くれたんですけど、早く気づけよって(笑)。
連載開始時は、調理している手元や食材を購入するシーンを描いたり、漫画に出てきた料理を実際に調理したレシピを載せたりしたいです、と担当さんからいろいろな提案をされたんですが、私にはそういう描き方は向いていないのでお断りして、今みたいなゆるい形で描かせてもらっています。
『おいおいピータン!!』では、毎回どこかに必ず大森さんを登場させようという裏ミッションもあったんですよ。でもそれはさすがに無理があったので、途中で断念しました。最初の数回には必ず大森さんが登場しているので、よかったら探してください(笑)。