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 浅井さんは詰め所の居間でパソコンを開き、団員の報酬や手当の集計資料の作成を始めた。各部からの報告をもとに統一フォーマットに記入し直す。作成した資料は期日までに所管する消防署に提出し、自治体の決裁が下りれば、指定の口座に手当・報酬が振り込まれる流れだ。本来であれば、活動対価として個人に支給されるはずだが、こうした事務作業も実質、無償扱いだ。

 浅井さんは別の詰め所にも案内してくれた。今度は、住宅地外れの幹線道路沿いにあった。空き瓶やスナック菓子などが散乱している状態ではなく、コの字型に並べられた机とノートパソコンが数台あるだけだ。ただ、冷蔵庫の中をのぞくと、こちらもビール、チューハイ、焼酎などがそろっていた。真夏だったこともあり、ソフトドリンクを飲もうと思っても、近くの自動販売機に買いにいかなければならず、拍子抜けしてしまいそうだった。

特定の管理者しか入力できない報告書

 詰め所で浅井さんが作成した出動報告書を見せてもらった。各部、班ごとにA4・1枚の用紙にまとめていて、縦列には部長、副部長、班長などと役職順に団員の名前が書かれてある。横列には、活動日の日付が書かれてあり、参加した日の欄に○印を記入する簡単なフォーマットだ。横列の端には、1月あたりの支給額の合計も書かれていた。多い人で2万円弱だった。

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 数年前までは、火災や訓練の出動時に点呼を取って、参加者の名前をメモしておき、後日まとめて整理していた。しかし、メモを紛失した場合は記憶をさかのぼって報告書を記入しなければならず、不正請求の温床になりかねないとして、携帯電話やスマートフォンを使った簡単な出動報告システムを導入した。デジタル化を進めたことで、以前ほど不正請求の数自体は減ったものの、特定の管理者しか出動報告の入力ができないため、分団によっては毎回1~3人を水増し請求しているケースが複数あるという。一般団員からは、報告の中身は分からない。

 各分団がシステムを使って入力した内容などをまとめていると、仕事の都合で転勤していたり、体調不良などで長期間参加できなかったりする事情があるにもかかわらず、火災や訓練などに参加している団員が浮かび上がってくる。

 転勤や体調がすぐれないといった個人にまつわる話は、飲み会のネタにもなるため、他の部や班の話でも勝手に情報が入ってくる。厳しく追及すると、団全体に変な噂が広がりかねないので、不正に疑問を感じても簡単な問い合わせをする程度にとどめている。