昭和34年(1959年)創刊の総合週刊誌「週刊文春」の紹介サイトです。最新号やバックナンバーから、いくつか記事を掲載していきます。各号の目次や定期購読のご案内も掲載しています。

2021/05/18

genre : ニュース, 社会

「信頼」につけ込む

 不正請求のカラクリについて、取材をもとに東京消防庁の幹部に伝えてみると、

「消防団との関係は信頼関係で成り立っている。記憶ベースによるいい加減な申請はないと思っているし、出された書類を信頼して手当を支払うしかない」

 と毅然とした態度で話す。ただ、幽霊消防団員や実際にその日の活動に参加していない団員の欄に架空の○印をつければ、いとも簡単に不正請求が可能になる。東京消防庁の幹部の言葉を借りるならば、「信頼」につけ込んだ水増しが起きていた。

 浅井さんによると、こうした不正請求は会計担当になった時からすでに始まっていた。以前は実際の参加人数より数倍に膨らまして請求する事例もあったが、幽霊消防団員の問題が明らかになりつつある中、極めて悪質な請求はほとんどみられなくなった。

 不正を正したい思いはあるものの、地域から「村八分」にされる可能性を考えると、思い切って口火を切れない。階級社会のため、上級の団員にたてつくことは難しい。

「水増し請求をしている分団が一部にとどまっていることがせめてもの救いかもしれません」

 と言いつつ、浅井さんは不満気だ。軽度の水増し請求は頻発している。

公金はコンパニオンの派遣費用にも

 浅井さんはある特定の団員の不正請求が続いていることを不審に思い、その人が書いているブログをチェックし続けていた。すると、書類上は出動しているにもかかわらず、ブログでは仕事の都合で数日間にわたって他県に滞在していたことが明らかになった。浅井さんは、出動報告書とブログを照らし合わせながら熱心に説明してくれた。

「なんとか、この不正を表沙汰にしたいんですが袋だたきにあうのが怖くて」

 問題の団員は、浅井さんとは部・班が違うものの、同じ分団に所属していて、さまざまな会計書類を次々に印刷しながら語ってくれた。疑わしい事例は、水増し請求だけにとどまらなかった。

 例えば、ある研修会名目の旅行費は約175万円にも及ぶ。団員から一部会費を徴収していたが、団にプールした報酬・手当の約80万円が充てられていた。

 特筆すべき項目は、支出の項目だ。宿泊費約44万円とは別に諸経費(懇親会330分)に63万円もの費用がかかっている。

「それは、コンパニオンの派遣代ですね」