災害時に消防署と協力して、自分たちの町を守るための組織である「消防団」。自治体によって実態は異なるものの、年額報酬、出動手当などが団員に支給されることで組織活動が支えられている。報酬・手当の財源は、もちろん私たちの税金だ。
町を守ろうと尽力してくれる人たちに適正な報酬が支払われることはいたって当然のことといえる。しかし、近年は実際には活動していない幽霊団員を利用した水増し請求が問題化している。そうした幽霊消防団の問題に迫った一冊が、毎日新聞記者の高橋祐貴氏による『幽霊消防団員 日本のアンタッチャブル』(光文社新書)だ。ここでは同書の一部を抜粋。消防団員である浅井さん(仮名)の証言をもとに不正請求のカラクリを詳らかにする。(全2回の1回目/後編を読む)
◆◆◆
国民の目は不正受給に厳しいのになぜ?
消防団員に支給される報酬・手当はどれくらいだろうか。調べてみると、ちょっとした副業の収入程度はもらえることが分かった。
消防団を置いていない大阪市を除き、道府県庁所在地45市の消防局・消防本部・一部事務組合では、活動実績にかかわらず、条例で定められた報酬(一般団員の場合、年間1万3000~5万円)が支給される。これとは別に、消火活動や訓練などへの参加があれば、1回数千円程度の出動手当が支払われている。階級が上がれば報酬の支給額も増え、10万円以上に上るケースもある。浅井さんの所属する分団では役職者になると、年間15万円以上の報酬が支給される。幽霊消防団員は、一般団員であるケースがほとんどで、手当の水増し請求頻度にもよるが、少なくとも1人あたり5万円以上が支払われることになる。
私は、いとも簡単に水増し請求ができることが不思議でならなかった。公金の不正支給に関して、国民の目は厳しい。例えば、新型コロナウイルスの影響で経営状況が悪化した企業に最大200万円が支給される「持続化給付金」では、事業を実施していないにもかかわらず申告するなど、不正に申請・受給する行為が続出して、検挙もされている。
経産省は、不正受給と判断された場合の処置として、給付金の全額に、不正受給の日の翌日から返還の日まで、年3%の割合で算定した延滞金を加え、これらの合計額にその2割に相当する額を加えた額の返還請求と、申請者の氏名などを公表するとしている。
一方、消防団の報酬・手当の不正受給については、内容が悪質な場合には刑事告発が検討される場合もあるが、返還請求時にペナルティーの額が上乗せされるようなことは聞かない。