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オリジナルは大きく異なった展開に…『タイタニック』幻の3つ目のエンディングとは

2021/05/14

source : 文藝春秋 digital

genre : エンタメ, 映画

(2)ロング・バージョンは劇場公開版と変わらない構成だが…

〈ロング・バージョン〉は、基本的に〈劇場公開バージョン〉と変わらない構成だが、盛り込まれているものが多くて長めになっている。タイタニック号の所有者としての責任を放棄して早々と救命ボートに乗り込んで救助を待つ実業家ジョセフ・ブルース・イズメイ(ジョナサン・ハイド)、必死に転覆したボートにつかまる人々、夜明けと共に現れるカルパチア号、その甲板を歩くイズメイに憎しみと蔑みの目を向けるタイタニック号の乗客たち。そうした助かった者の姿に加え、老いたローズからは助かったものの後に自殺したキャルの家族たちの末路まで語られる。

『タイタニック』より ©getty

 キャメロンは「その後ローズや他の人々がどうなったか、おのおのの物語に決着をつけたいと思っていた」「画面に直接出さなくても暗示ぐらいはしたい」「だが、作品のペースを考えてカットした」と、このバージョンを作ったものの採用しなかった理由を語っている。

(3)オリジナル・バージョンは大きく異なった展開に

〈オリジナル・バージョン〉はキャメロン曰く「“元々の脚本ではこうだった”というエンディングを撮影したもの」で、回想を終えたローズの語りから潜水艇のショットまでは劇場公開版と同じ。そこからは〈劇場公開バージョン〉〈ロング・バージョン〉と大きく異なった展開に。

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 調査船の甲板で語り合うブロックとリジーが船尾の柵を登るローズを見つけて、慌てて駆け寄る。彼女が“青き海の心”を隠し持っていたこと、それを海に投げ入れようとしていたのを知って驚くブロック。騒ぎを聞いて人々が集まるなか、ダイヤを捨てるのをやめるよう迫るブロックに「今やっとあるべき場所へ戻せる」「宝物は沈没船にはないのよ」「大切なのは人生そのもの 1日1日が宝物なの」と説き、彼に“青き海の心”を握らせてから海に投げ入れる。ローズの言葉と手にしたダイヤの重みを通して“気づき”を得たブロックは笑い出し、目の前にいるリジーを女性として意識してダンスに誘う。ふたりを眺めてローズが微笑み、ラスト・シーンへ繋がる。

 キャメロンは、ブロックの“気づき”について「海底に沈んだタイタニック号は悲劇の舞台であり、聖地のような場所だから、宝探しで一発当てようという自分は場違いな存在だ」「大切なのは物質的な富ではない」「金儲けばかり考えては幸せになれないんだ」といったものだと説明する。“気づき”によって、3年も取り憑かれていたタイタニック号と“青き海の心”から解き放たれたことで彼は笑い出すのだ。