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オリジナルは大きく異なった展開に…『タイタニック』幻の3つ目のエンディングとは

2021/05/14

source : 文藝春秋 digital

genre : エンタメ, 映画

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劇場公開バージョンを採用した本当の理由とは

「このシーンで私は崇高な大団円を狙っていた」が、「それまでの盛り上げてきた感情の流れを断ち切ってまで」残すことはないと考えて〈劇場公開バージョン〉をエンディングに採用したとキャメロンは言う。たしかに、沈没とジャックとローズの別れから続く場面としてはトーンが明るすぎる気はする。いきなり笑い出すブロックに戸惑ってしまう人もいるだろう。そもそも作品全体に対して「映画が追うべきなのはジャックとローズの物語なのだ」とも語っている。だが、一方でキャメロンはブロックと同じような気持ちを抱いて“元々の脚本にあったエンディング”を変えた気がしなくもない。

 キャメロンが金儲けばかりを考えていたなどとは思わない。だが、「海底に沈んだタイタニック号は悲劇の舞台であり、聖地のような場所だから、宝探しで一発当てようという自分は場違いな存在だ」と、ブロックと似たような気持ちを抱き、“元々の脚本にあったエンディング”を採用しなかったのではないか。

 潜水艇で沈没したタイタニック号の外観や内部を撮影して本編に使用。タイタニック号の建造を請け負った製造会社ハーランド&ウルフ社が社外秘にしていたオリジナル設計書を入手して、外観はもちろん、機関室、船室、ダイニングなどの船内を再現。現存する食器やナプキンの納入業者に、当時のものと同じものを発注。さらには、ほぼ実寸台のセットを海岸に浮かべている。もはや、その工程は一種の引き上げといっても過言ではない。そこまでして映画を制作するなかで、ブロックと同じような“気づき”が訪れたのではないのか。そして、それを踏まえたエンディングの選択だったのではないのだろうか。

『タイタニック』DVD

『タイタニック』のワールド・プレミアとなった1997年度第10回東京国際映画祭に合わせて来日したキャメロンは、インタビューでタイタニック号引き上げの是非を訊ねられて「亡くなった1517名の方々の魂の眠りをさまたげることになるのであろう引き上げ作業には、僕は反対だ」と答えている。

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 タイタニック号は現在も北大西洋の深海3800メートルで眠り続けているが、腐食によって2030年までには船体すべてが消滅するといわれている。

※本稿で紹介した3種類のエンディングは、すべて『タイタニック(2枚組)Blu-ray』(ウォルト・ディズニー・ジャパン)で観ることができます。

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【参考資料】
『タイタニック(2枚組)Blu-ray』(ウォルト・ディズニー・ジャパン)
『タイタニック ジェームズ・キャメロンの世界』(ポーラ・パリージ、訳:鈴木玲子、ソニー・マガジンズ)
『ジェームズ・キャメロンのタイタニック』(エド・W.マーシュ、訳:名木宏之、竹書房)
『ROADSHOW特別編集 タイタニック』(集英社)

オリジナルは大きく異なった展開に…『タイタニック』幻の3つ目のエンディングとは

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