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やくざ組織の一員となり、日本刀と拳銃が肌身はなせない生活に

 代々木忠に花屋を勧めた先輩は、地元のやくざ組織の構成員になっていた。

 代々木忠の著作「オープン・ハート」には、Tというイニシャルで登場する。

 Tは代々木忠に興行の手伝いを依頼してきた。

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 やくざの興行は、芸能界から剣劇、ストリップと幅広く、代々木忠は組織の一員になって、全国の興行に携わるようになり、行く先々で地元やくざと緊迫したやりとりをするようになった。

©iStock.com

 代々木忠は26歳で組織のトップに立ったが、先輩のTとは次第に敵対関係になっていく。

 どんな世界でも身内同士のほうが距離が近いために憎悪感が強まり、抜き差しならない関係に陥るものだ。

 代々木忠とTは意地の張り合いから互いの命を狙うようになる。東京浅草に移り住み興行の仕事をしていた代々木忠はいつ命をもっていかれるかわからぬ夜を過ごすことになり、日本刀と拳銃が肌身はなせない生活となった。

 喉がカラカラに渇くような緊張関係が1年以上つづくと、両者を知る目上の関係者があいだに入り、代々木忠に手を引くように頼んだ。

 いい潮時だろうと、代々木忠は堅気になり、故郷で飲み屋の手伝いをしながら暮らしはじめた。

 今度こそ、つかんだ小さな幸福だった。

暗い埠頭で男たちに囲まれ「命だけは助けてくれ」

 ある夜、4人の屈強なやくざが店に乱入し、代々木忠を殴り拉致すると、小倉港の埠頭まで連れて行った。

 Tの居所を教えろと迫る。

 男たちはTと対立する組織の構成員で、4人のうち何人かは代々木忠に恨みをもつやくざだった。

 Tの居場所を教えなければ、沈める。

 人知れず海に人間を沈めて殺害するのは、この世界ではめずらしいことではない。

 いままで対立組織の構成員にさらわれ、川縁で半殺しの目にあわせられ、命乞いするやくざを蔑視していた代々木忠も、いざ自分が同じ立場になると、恐怖のあまり信じられないほど震えるのだった。

 代々木忠はTの居所を知らなかった。

「命だけは助けてくれ」

 暗い埠頭で男たちに囲まれ、冷たい波の音が耳に届く。

 失禁した。

 濡れたズボンの重さを感じながら、何度も何度もコンクリートに頭をこすりつけ、許しを乞うた。

 男たちは土下座する男が、本当に居場所を知らないことに気づいたらしく、蔑みの言葉を吐き捨てると、去っていった。