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「ドラッグを使いながら、放送に出たことはあるのか?」薬物事件で逮捕された元NHKアナが上司についた一つの“嘘”

『僕が違法薬物で逮捕されてNHKをクビになった話』より #1

2021/05/19
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 夕方5時のニュース番組でリポーターを担当し、NHKのアナウンサーとして順調にキャリアを重ねていた矢先、違法薬物の所持・製造で逮捕された塚本堅一氏。報道する側から一転して報道される側に転落した彼が、留置場で考えたこととは……。

 同氏が逮捕前日から現在に至るまでの歩みをまとめた著書『僕が違法薬物で逮捕されてNHKをクビになった話』(KKベストセラーズ)の一部を抜粋。麻薬取締官の取調べ、接見に来た家族・上司との面会の様子を紹介する。(全2回の1回目/後編を読む

※塚本氏は現在、依存症問題の誤解や偏見を払拭する活動を行う団体「一般社団法人ARTS」のプロジェクトに協力するなど、依存症問題に関するさまざまな活動を行っています。

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マトリの取り調べと再逮捕

 私を担当したのは、メガネで優しい雰囲気のE捜査官と、新卒で入ったばかりの若い女性捜査官の二人です。取調室に入ると、E捜査官が「“あとみよそわか”っていい言葉だよね」と突然告げました。これは、作家の幸田文が、父である幸田露伴から教わった言葉で、掃除などの家事を終えた最後に「あとみよそわか」と唱えながら、最終確認をしなさいと躾(しつ)けられたそうです。

 私も、うっかりミスをすることが多い人生だったので、これを「座右の銘」にしていると、何年か前のアナウンサープロフィールに書いていました。この捜査官は、私のことを調べ尽くしてきているな。そう感じた瞬間でした。嘘をついたり、策を練ったりしないでいこうと決めたのも、この出会いだったからかもしれません。

©iStock.com

 取り調べでは最初から、全部隠さず話しました。この期に及んで、隠すものもありません。逮捕当時、私は容疑を一部否認していると報道されていましたが、否認というよりは「違法性があったかどうか、よくわからなかったものを作ってしまった」と供述していました。最初の頃は、マトリとしてはラッシュそのものを作るつもりだったと供述させたいようでした。確かに、効き目は昔使っていたラッシュに似ていましたが、そこまで効果が高かったかというとそうでもない。中には、全然効かないものもありました。「何パーセントくらいの割合で、偽物だと思いましたか?」という質問もありましたが、何パーセントなんて、割合で分かるわけがありません。グレーゾーンは、あくまでグレーです。でも、それでは通用するわけがない。結果として「これが違法なものかどうかわからなかったが、もしかしたら違法なものなのかもしれないというグレーゾーンの気持ちに蓋(ふた)をして購入した」という結論に至りました。

 文字にすると、あっという間ですが、この結論に達するのに1ヶ月かかっています。調書に私の人生がかかっているわけですから、お互い真剣です。

 これまでの人生で、ラッシュにどれくらいお金を払ったかなんて、到底わかるわけがない質問もありました。作った液体を入れていた瓶を、どこで購入したかと私が答えれば、捜査官たちが売り場にその確認に行く。どこの銀行から入金をしたと答えれば、銀行からATMの監視カメラの映像を取り寄せる。そうやって、一つ一つ答えていくと、これくらい時間がかかるのは当然かもしれません。