初めてついた嘘
取り調べと並行して、NHK側の面談もありました。さすがに最初の面談は、気が重くて仕方がなかったのを覚えています。午前中は、いつも通り留置場内で取り調べを受け、午後にアナウンス室の管理職の二人と弁護士同伴のもと面会室で会いました。その前に、迷惑をかけた担当番組のスタッフ一同とアナウンス室の室長、アナウンス室の同僚に宛てた謝罪の手紙を書きました。これが届けられるかどうかもわかりませんでしたが、どうしてもお詫びの気持ちを伝えたかったのです。面会室に入ると、よく知る上司二人がいます。まずは、私の起こした事件で大迷惑をかけてしまったことをお詫びしました。「思ったより元気そうだな」と声をかけてもらい、局側からの事情聴取が行われます。責められるということが一切なく、粛々(しゅくしゅく)と事情聴取が行われているのは、逆に辛いものでした。本人から直接聞いたということが恐らく大事なポイントなのですが、面会時間は20分と限られているため、あまり細かく話すことはできません。合法なのかどうかわからない怪しいサイトで製造キットを買ったこと、疑いの気持ちも強かったが、公共放送のアナウンサーとしてあまりにも自覚が足りなかったと猛省していることなどを伝えます。「ドラッグを使いながら、放送に出たことはあるのか?」なんて質問もありましたが、ラッシュの作用について説明し、納得してもらいました。面会の最後に「塚本は、今後どうしたい?」と要望を聞かれます。
「刑が確定するまで、処分は待っていてほしい。アナウンサーではなく、別な職種で放送を支えたい」
ここで、初めて嘘をつきました。本当は、逮捕された時点で辞めるつもりでいたのです。不起訴であろうと何だろうと、この時点で解雇になるのは想像できていたし、好きだった職場をここまで混乱させた自分を許すことができませんでした。とはいえ、弁護士や姉たちは、過去の事例や就業規則を基に、いろいろな策を考え、留まることができるのであれば、そこからやり直せばいいと、助言してくれました。私だけでなく家族にも迷惑をかけているなか、その提案を無下にすることはできませんでした。でも、内部にいた人間の感覚として、国会でも私のことが追及されている状態で、それは絶対無理だろうと悟っていました。
とはいえ、NHKとの初めての面談は、マトリの取り調べがなかなか進まない中、一ミリでも先に進むことができた気がして、久しぶりにホッとしたものです。
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