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“外に出られない”“人と話せない” 薬物事件を起こしたNHKアナが社会復帰できた「決定的なきっかけ」とは

『僕が違法薬物で逮捕されてNHKをクビになった話』より #2

2021/05/19

 2016年1月、危険ドラッグの所持でNHKアナウンサー塚本堅一氏が逮捕されたニュースが世間をにぎわせた。罰金50万円の略式命令を受けてNHKをクビになった塚本氏は、留置場で何を考え、釈放後どのような毎日を送っていたのだろう。

 ここでは同氏の著書『僕が違法薬物で逮捕されてNHKをクビになった話』の一部を抜粋。依存症回復施設に通い、どん底から人生を立て直した今だからこそ語れる思いを紹介する。(全2回の2回目/前編を読む

※塚本氏は現在、依存症問題の誤解や偏見を払拭する活動を行う団体「一般社団法人ARTS」のプロジェクトに協力するなど、依存症問題に関するさまざまな活動を行っています。

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薬物事件を起こした者として伝えたいこと

 逮捕され、湾岸警察署で取り調べを受けた初日。マトリのE取締官から言われて思い出した「あとみよそわか」という言葉があります。

「跡を見て、もう一度確認せよ」「そわか」は成就の意味の梵語(ぼんご)です。作家の幸田文のエッセイでこの言葉を知りました。文豪の幸田露伴が、娘の文に対して家事の最後にこの言葉を呪文のように唱え、仕上げを確認するようにと躾(しつけ)の一環として教えたものでした。この言葉には、家事だけでなく「自分自身の行いに対して、責任を最後まで全うするように」という少し深い意味もあるそうです。

 私は、解雇という実質的な処分は受けたけれども、自分が犯した失敗を、一人では振り返ることができませんでした。社会人としての責任もとることができなかったのです。自尊心が崩壊し、もっともっと自分を罰したらいいと思っていました。より罰を受けることで、目に見えない誰か(それは世間なのでしょうか)に許してもらえると感じていたのかもしれません。

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 でも、依存症の回復施設に通って、回復プログラムを受ける中で、施設の担当スタッフと、あるいは依存症の仲間たちと一緒に「あとみよそわか」することで、ようやく自分の現状を冷静に見ることができました。

 清廉(せいれん)性が求められる公共放送のアナウンサーという職でありながら、私はあまりにも怪しいものに手を出してしまった。その失敗の反省は十分しています。

一人で抱え込み、うつになった

 他人の口に蓋をすることはできないし、バッシングは仕方がないのかもしれません。

 とはいえ、バッシングが大きすぎて、私が本当に謝らなければならない人たちに、きちんと落とし前をつけることができなかったのです。

 冗談のようですが、本気で全国民に謝らなければならないと思い詰めていました。

 これを一人で抱え込んで解決するなんて、到底できるものではなかった。にもかかわらず、本来の性格からか、一人で悩み悶え苦しんだ結果、うつになり、この世から消えて存在が無くなることばかり考えていました。幸い、田中紀子さん(編集部注:公益社団法人ギャンブル依存症問題を考える会代表)や松本俊彦先生(編集部注:薬物依存症治療プログラムの開発・普及に関する研究などを行う精神科医)、施設や自助グループの仲間に出会うことができ、大げさではなく命を救ってもらったと思っています。