弁護士も驚いた再逮捕
基本的に、E捜査官が取り調べをして調書に仕上げる。その間、私は若い捜査官と「塚本さん、これはしくじり先生に出るべきですよ!」「あのね、しくじり先生は、失敗した後ちゃんと成功するような人が出るから面白いの。私は、もうそんなことにはなりません」なんて雑談をしていました。
とはいえ、再逮捕は流石(さすが)の私もショックを受けます。前日に、「もしかして、製造の罪で再逮捕するかも……」とE捜査官から告げられました。私だけでなく弁護士も、再逮捕なんてあるはずがない! と驚いたほどです。そもそもキットを買って作っていたことは、任意で取り調べられた時から正直に話していました。調書にもそのように書いていたのに、今更になって「製造」の容疑。
後から考えると、売った人を捕まえるため「製造」の罪が欲しかったのかもしれません。再逮捕後は、私の供述による製造実験なども行われました。「こんなに簡単にできるものだったのか……」と検事も驚いていたようです。私が釈放された数週間後、製造キットの販売人がようやく逮捕されました。
気が重い面会室
父は幼い頃に、母も私が社会人3年目の時に他界しました。なので家族は姉だけです。弁護士が決まったあと、姉が面会にやってきました。最初は、できればこんな姿を見せたくないと拒んだのですが、そうも言っていられません。局とのやりとりは、主に弁護士に任せていましたが、家のことなど伝達事項もあり、私が折れました。
弁護士とは違って、家族面会には看守さんが立ち会います。「休みで寝ていたら、友達からガンガン電話が鳴って、慌ててネットニュース見たらケンイチが逮捕されたのを知ったよ。最初は嘘かと思って、ラインを送ってみたけどやっぱり既読にならない。もう知らん!って寝直したら、それでもやっぱりいろんな人から連絡がきて、それはそれは大変でした。ま、生きててよかった。もう、心配かけないでください」。「本当に申し訳ない……」と私は謝ることしかできませんでした。
「聞きたいことをリストにしてきたので、時間もないからこっちを片付けよう」。家族面会は、時間が15~20分と限られています。飼い猫は、姉と近所に住んでいる友人が面倒を見てくれているので無事だということ、大家さんにも謝罪の連絡を入れていること、沖縄のパートナーが心配して週末ごとに上京していることなど、報告事項を順番に済ませます。「あのサイト見たけど、あれは騙されるね。まぁ、起きてしまったことは仕方ないよ。仕事のことは早まって結論を出さないで、よく考えて弁護士さんに相談しなさい」。あっという間に制限時間がきて、姉は帰っていきます。この日、姉から私を責める言葉は一つもありませんでした。もし、私が姉の立場になったとしたら、同じことをできるか。頭が上がりません。