ごく普通のことの多くを知らないスンニ
だが、この子を自分たちの娘として迎え入れるには、外国からの養子縁組についてのアメリカの法改正を待たねばならなかった。その間、将来のわが娘をできるだけ良い環境に置いてあげたいと、ミアは、スンニをソウルで一番良いと聞いた施設に移すよう手配した。幼いスンニには、大人の間で、海を超えてそんなやりとりがあったことなど知るはずもなかった。何の不満もないのに、なぜ大人たちが急に自分を連れ出そうとするのか理解できず、スンニは机の下に隠れて必死で抵抗した。今いるところよりも良いとミアが聞いた次の場所は、修道女らが子供たちの世話をする施設。同室の子供の誰かがおねしょをすると、全員が引っ叩かれたりする厳しさはあったものの、スンニはここでもそれなりに快適な毎日を過ごした。
それから1年以上が経ったある日、突然、ミアが現れた。初めて会う、その白人の女性は、とても嬉しそうな表情で、両手を広げて近づき、自分を強く抱きしめた。そのドラマチックな出会いが済むと、ミアはスンニの手を繋ぎ、修道女とスンニの友達を後にした。わが家として過ごしたその施設を去っていく時、スンニは一度も後ろを振り返らなかった。
しかし問題は、すぐに起こった。その夜、2人は、ソウル市内のホテルに泊まったのだが、ここでミアは、スンニがごく普通のことの多くを知らないというショッキングな事実を見せつけられたのだ。たとえば、回転扉を見ると怖がり、エレベーターに乗ると吐いた。卵が出てくると、殻をむかずにそのまま口に入れてしまう。プレゼントを渡しても、じっと箱を見つめているばかりだった。中に何かが入っていると知らないのだと気づき、ミアが包装紙を開けてあげようとすると、機嫌を悪くして泣いた。なだめながら、ゆっくりとセロテープをはがし、中にあった女の子用のパジャマを出すと笑顔になったが、それをスンニの体の前にあてがい、鏡で見せると、パニックになって叫びながら激しく鏡を蹴った。その勢いで、2人ともバスタブの中に落ちそうになってしまった。