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「朝からそんな格好をするなんて、娼婦みたい」

 その年、ウディは、自分の監督作以外に、ポール・マザースキーが監督したベット・ミドラーとの共演作「結婚記念日」(1991)に出演した。映画の舞台はロサンゼルスのショッピングモール、ビバリーセンターだが、ロサンゼルスを嫌うウディの希望で、撮影のほとんどはコネチカットのショッピングモールとニューヨークのクイーンズにあるスタジオで行われた。映画には買い物客として多数のエキストラが必要だったため、ウディはスンニとフレッチャーに声をかけた。毎朝、リムジンは、まずイーストサイドでウディを拾い、次にウエストサイドのミアの家からスンニとフレッチャーを拾って、現場に向かった。その車の中で、ウディとスンニはおしゃべりに花を咲かせ、途中、しばしばウディはスンニの手を握ったり、太腿の上に手を乗せたりした。車には時々、他の人も同乗することがあったが、2人はその人たちの目を気にすることもなく、堂々としていた。

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 この映画の撮影が終わったあたりから、スンニは、週末になると、朝9時頃から夕方まで、一人で出かけるようになった。映画の現場で仲良くなった20代後半の女友達に会うとスンニは言ったが、毎回、妙におしゃれをして行くのを見て、ミアは不審感を持った。これまではスウェットシャツとジーンズ、スニーカーという、何も考えない服装だったのに、突然ミニスカートにパンプス、帽子、メイクまでばっちりする気合いの入れようなのだ。そんなスンニを見て、ラークやデイジーは「朝からそんな格好をするなんて、娼婦みたい」とからかったりした。ミアは、その女友達は誰なの、名前を教えて、一度家に連れて来なさいなどと言うのだが、その都度、スンニは機嫌を悪くし、答えなかった。またスンニはこの頃から、以前にも増して、ミアに攻撃的な態度を取るようになった。いつも冷たく、会話を嫌い、他人がいる前でも反抗的な態度を取るのだ。ティーンエイジャーにはありがちなことだと受け入れようとしつつ、ミアは、時折、ウディに、「スンニが大学に入って家を出たら私とスンニにとって良いことかも」とこぼした。ウディは、スンニからミアの言動について散々聞かされていたが、もちろんミアには話さなかった。