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松本幸四郎「祖父や叔父が通ったであろう道はすべて通る覚悟」 2024年『鬼平犯科帳』主演を‟即決”した理由

『オール讀物』2021年5月号より#1

2021/05/29

source : オール讀物 2021年5月号

genre : エンタメ, 芸能, 映画, テレビ・ラジオ, 読書

 池波正太郎生誕100年を節目に、『鬼平犯科帳』と『仕掛人・藤枝梅安』の映画化が決定。これまで何度も映像化されてきた名作の新たな主役が、満を持して発表された。

 火付盗賊改方長官・長谷川平蔵を務めるのは、十代目松本幸四郎。祖父の初代松本白鸚、叔父の二代目中村吉右衛門が演じてきた大役を引き継ぐ。そして、表向きは鍼医、裏では殺し屋の藤枝梅安を演じるのは、俳優・豊川悦司だ。今なお絶大な人気を誇る作品に挑む2人に、現在の意気込みを聞いた。(豊川悦司さんのインタビューはこちら

左から豊川悦司さん、松本幸四郎さん ©深野未希/文藝春秋

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楽屋に入った瞬間に「生の鬼平がいる!」と興奮しました

 叔父(中村吉右衛門)が『鬼平犯科帳』を撮影している時に、楽屋を訪ねた時のことは忘れられません。休憩中の叔父は鬼平の支度のまま次の出番を待たれていたのですが、僕は楽屋に入った瞬間に「生の鬼平がいる!」と興奮しました。実の叔父ですから小さい頃から公私ともによく見知った存在で、楽屋での姿も芝居では数えきれないほど目にしています。ですが、その時そこにいたのはいつもテレビで見ている長谷川平蔵そのもので、カメラが回っていないところでもその存在感はまったく揺らぐことはなかったのです。

 自分にとってリアルタイムで知る『鬼平』は叔父が出演していたテレビシリーズです。その『鬼平』を通して池波正太郎先生の作品世界を知り、初代鬼平が祖父(初代松本白鸚)だったことや丹波哲郎さん、萬屋錦之介の小父さんが演じていらしたことも知りました。

 自分自身もドラマの単発スペシャルで2度、出演させていただいたことがあります。でもまさか自分が長谷川平蔵を演じることになるなど考えたこともありませんでした。ですから、お話をいただいた時はとにかく驚きました。そして湧き上がったのは喜びと「演(や)りたい」という気持ち。何というべきなのか、根拠のない自信に背中を押されるように即答でお受けしていました。

八代目松本幸四郎を名のっていた初代白鸚主演による『鬼平犯科帳』の連続テレビドラマが始まったのは1969年。71年には新たなシリーズが制作され、その後主役は丹波哲郎、萬屋錦之介へと引き継がれ、中村吉右衛門主演による新シリーズがスタートしたのは年号が平成に改まった1989年のことだった。吉右衛門が28年にわたって鬼平を演じたシリーズは、連続ドラマ137話、スペシャル13本の計10510本が制作された。幸四郎が出演したスペシャルは4作目の『引き込み女』(2008年)と8作目の『盗賊婚礼』(2011年)で、それぞれの作品で医師の井上玄庵と大泥棒の後継者である傘山の弥太郎を演じた。