文春オンライン

「よくぞ僕を選んでくれた」新‟梅安”を演じる豊川悦司が感じた『必殺仕掛人』と『ジョーカー』の共通点

『オール讀物』2021年5月号より#2

2021/05/29

source : オール讀物 2021年5月号

genre : エンタメ, 芸能, 映画, テレビ・ラジオ, 読書

note

 池波正太郎生誕100年を節目に、『鬼平犯科帳』と『仕掛人・藤枝梅安』の映画化が決定。これまで何度も映像化されてきた名作の新たな主役が、満を持して発表された。

 火付盗賊改方長官・長谷川平蔵を務めるのは、十代目松本幸四郎。祖父の初代松本白鸚、叔父の二代目中村吉右衛門が演じてきた大役を引き継ぐ。そして、表向きは鍼医、裏では殺し屋の藤枝梅安を演じるのは、俳優・豊川悦司だ。今なお絶大な人気を誇る作品に挑む2人に、現在の意気込みを聞いた。(松本幸四郎さんのインタビューはこちら

◆◆◆

ADVERTISEMENT

チャレンジしがいのある仕事を映画の神様がくれた

「世の中に生かしておいては、ためにならぬやつ」を闇から闇へと葬る仕掛人・藤枝梅安。表の顔は腕のいい鍼医として町の人々に慕われ、裏では冷酷な仕掛人。世の表と裏、善と悪、清濁さまざまなものを抱えた人間を描き続けた池波正太郎が生み出した魅力的なキャラクターは、緒形拳をはじめ田宮二郎、萬屋錦之介、小林桂樹、渡辺謙、岸谷五朗と、多くの名優が演じている。

 この名作の主演オファーがあったとき、豊川は、大きな驚きとともに「よくぞ僕を選んでくれた」と感動したという。

豊川悦司さん

 

 子どもの頃、緒形拳さんが演じる『必殺仕掛人』の梅安を見て「怖いんだけどカッコいい!」と夢中になった時期がありました。僕の憧れのヒーローであったので、それをまさか自分がやることになるなんてとすごく驚きがあり、正直迷いがありました。ただ、大森寿美男さんが書いた素晴らしいシナリオを読み、監督に河毛俊作さんの名前が出て、これはやるしかないと腹をくくった。チャレンジしがいのある仕事を映画の神様がくれたんだなと思いました。

 緒形拳主演の梅安の放送は、1972年のスタート。勧善懲悪の明朗時代劇が主流の時期に、殺しを請け負う闇の稼業の男が主人公ということで話題となり、高視聴率をマーク。夜10時台のおとなの時間の放送であったが、多くの子どもたちも魅了したのだった。

 小学生のときだったと思います。『必殺仕掛人』と『木枯し紋次郎』(長い楊枝を口に咥えた孤独な渡世人を主人公にしたシリーズ)が同じ時間帯にやっていて、うちの姉は紋次郎を観たいんだけど、僕は仕掛人を観たくて……当時はビデオデッキもありませんでしたから、じゃんけんで喧嘩して観た記憶があるんです。小学校に行くと、楊枝を口に咥えているか手に持っているかで友だちもどっち派かわかる(笑)。ああ、お前はそっち派か、みたいに。女子はそれを見て「また、やってる」みたいなね(笑)。当時のテレビドラマはときどき女性の裸も出たりして、子どもには刺激の強いシーンがあったりしたんですけど、僕が夢中になった緒形拳さんの梅安は、目がギョロリとして、顔の半分にしか光が当たってなくて、なんか人間の顔ってこんな風に見えるんだと強く感じた覚えがあります。ダークヒーローと言われますけど、今回の新しい梅安のキャラクター、それを取り巻く世界の光と影は、いつの時代も不変のエンターテインメントになるという気がしています。