ここで時代劇を自分たちの手で復活させない手はない
今回の『仕掛人・藤枝梅安』と『鬼平犯科帳』新作製作は、日本の時代劇文化を継承し、京都の製作技術を守ろうというプロジェクトから始動している。
映画は、23年2月と5月に相次いで2作が公開予定。コンプライアンスが重視され、残酷なシーンなどドラマでは表現しにくい空気の中で、「時代劇映画」ならではの「闇」の世界を熟練スタッフたちが創りだす。百余年の歴史を誇る京都の時代劇スタッフとの仕事は、豊川にとっても大きな楽しみだ。
コロナ禍で、映像、演劇の世界にかかわらず、全ての人の生活が変わってしまいました。それでも僕らは働くし、ご飯も食べるし、毎朝も迎える。こういうことになってしまったけれど、乗り越えられつつある、いい感じになってる感覚が僕にはあります。世界的な映画の流行などを見ましても、未来を描くことから、少し前の時代や過去の時代、昔の人たちがなにを感じてどういう生き方をしてきたかを人々が学ぼうとしている。時代劇で描かれるシンプルでとても人情あふれる人間たちの世界というのはこれからどんどん需要が出てくるんじゃないか。マーケットも日本だけじゃなく世界にある。世界から見ても日本の時代劇がコンテンツとしてどれだけ愛されているか、支持されているかがわかる。昔の映画賞を受賞しているのも半分くらいは時代劇ですし、ここで時代劇を自分たちの手で復活させない手はない。そこに日本映画の大きな未来があるんじゃないか。個人の意見ではありますが、時代劇の黄金期がこれから来るんじゃないかという気がしています。
初めて京都の撮影所に行ったのは、おそらく藤田まことさんの刑事ドラマだったと思います。京都で撮影すること自体が僕にとってワクワクすることです。映画の撮影は、旅に似ているところがあると思うのですが、京都のスタッフ、京都の町のひとたちはいつもあたたかく迎えてくれる。「おいでやす」と言ってもらえてるような気がして、エネルギーをもらえます。前回京都の撮影所に訪れたのは3、4年くらい前で、その時はスタジオも満杯で俳優さんの控室もなかなか取れないくらい、すごく活気がありました。映画のコストのかけ方が変わって、特殊なロケーションやセットを必要とする時代劇映画を2本同時に制作するのは理にかなっているんじゃないかという気がしています。
京都駅を降りて、撮影所の門をくぐった瞬間に役の世界に入っていけるというような、東京でお芝居するのとは別の感覚は正直あります。たぶん京都のスタッフさんが「梅安、トヨエツがやるんやで」といまごろ言ってるような気がします(笑)。大切な役ですから、身が引き締まる思いどころか、身が縮こまる思いではありますが、クランクインが楽しみです。
(取材・構成 ペリー荻野)
● 映画『仕掛人・藤枝梅安』は2022年に2作品を同時撮影、2023年2月に1作目、5月に2作目が公開予定です。
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(とよかわえつし 大阪府出身。1990年、北野武監督の映画『3―4X10月』で注目され、以降も『Love Letter』、『今度は愛妻家』、『必死剣 鳥刺し』、『MIDWAY』、ドラマ『NIGHT HEAD』、『愛していると言ってくれ』、『青い鳥』などヒット作に出演。2021年に映画『いとみち』、『子供はわかってあげない』、『鳩の撃退法』が公開)