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3度の骨折も、涼しい顔で乗り越えて
93年。宝塚記念を目標に調整されていたトウカイテイオーは調教中に左前肢を骨折する。症状は軽かったが、骨折はこれで3度めである。さすがのテイオーでも復帰は厳しいのではないか。このまま引退だろうか……。
それでもトウカイテイオーは有馬記念に出走してくる。1年もレースから遠ざかっていた馬がGⅠに勝つのは常識的にはあり得ないと思いながら、復帰を待ち、復活を信じるファンは4番人気に支持した。
はたしてトウカイテイオーは、人々の期待に応え、競馬の常識を簡単に覆した。レース序盤は中団の内を進み、2周めの4コーナーで先行集団にとりつくと、直線で先頭に立った1番人気のビワハヤヒデを測ったように半馬身捉える、完璧なレースだった。
信じられないレースを目撃したベテランファンはただ唖然とし、ブームのなかで急増した若いファンは「テイオー!」「テイオー!」と叫んでいる。騎手の田原成貴が涙し、マスコミが「奇跡の復活」と書いたあのレースで、トウカイテイオーだけが、いつものように涼しい顔で立っていた。
トレードマークの前髪がなびく、その姿が格好良すぎた。(文中敬称略)