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「オリンピックが開催できる状況ではない。その決定的理由とは」公衆衛生の第一人者が断言《渋谷健司氏緊急寄稿》

2021/05/25
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差が出た「日英の病院」決定的な違いとは?

 感染者数が多く被害も甚大であった英国だが、医療崩壊を防ぐことができたのは、有事の医療供給体制を迅速に準備できたからだ。1週間程度の短期間で、国内の医療体制をコロナ対応へとシフトさせ、コロナ専用病床の確保、ICUの増床、さらに、コロナ専用仮設病院を全国に設けた。

 これは、英国の病院が慈善団体や教会などから発展していった歴史があるために、その9割以上が公的病院であり、トップダウンで組織を動かすことができるからだ。日本は、逆に、多くを民間病院が占めており、また、「広く、薄い」非効率的な供給体制のため、民間病院に有事での協力を強制する法律が整備されない限り、有事対応がそもそもできないのだ。

 しかし、こうした課題は当然認識されていた。昨年7月には厚労省はコロナ患者数の予測に基づく医療体制の確保のための計画を公表し、また、8月には自民党の行革本部(塩崎恭久本部長)やガバナンス小委員会(武見敬三委員長)は、感染症法の改正を提案した。具体的には、厚労大臣と知事に重症患者等の受け入れ要請・命令権限等を司令塔として付与し、広域調整可能な体制の構築、重症患者受け入れなどの情報を積極的に公開するような画期的な制度が盛り込まれていた。

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エクモ ©️iStock.com

 筆者も検査の拡大と医療提供体制の再構築の必要性について繰り返し発信してきたが、当時は緊急事態宣言も解除され、秋冬に向けた本格的なコロナ禍に対して準備をする絶好の機会であった。しかし、「日本モデルの成功」、「ファクターX」、「コロナは風邪」などの根拠なき楽観論が広がり、経済優先の対応が行われ、日本のコロナ禍への本格的な備えはほとんど進まなかったことが悔やまれる。

 特に、感染症法の改正は、これまでの感染症研究所を中心とした体制に変革を迫るものであり、既得の権限の見直しを嫌った厚労省や感染症研究所関係者によって骨抜きにされてしまったと聞いている。