文春オンライン

「オリンピックが開催できる状況ではない。その決定的理由とは」公衆衛生の第一人者が断言《渋谷健司氏緊急寄稿》

2021/05/25

「五輪は開催できない」と言わざるを得ない決定的理由

「無観客ではどうか?」「選手団の行動を制限してはどうか?」等、関係者の皆さんは、なんとか開催に向けた条件整備に尽力されていることとは思うが、残念ながら、現在の状況をつぶさに分析すると、五輪を開催できる状況にはないと言わざるをえない。

写真はイメージ ©️iStock.com

 まず、世界的な変異株の蔓延で、多くの国々ではコロナ禍が収束していない。既に海外からの観客は受け入れないことになっており、大会期間中、選手団への頻回検査が検討されている。選手や関係者へのワクチン接種も発表されたが、ワクチンは感染を完全にコントロールできるものではなく、また、全ての選手や関係者がワクチンを打つとは限らない。ワクチン接種が進んでいる先進国はその恩恵を被ることができているが、大多数の国々では選手を含めた国民の多くにワクチンが行き渡るには相当な時間がかかる。

昨年から行うべきだった「検査と隔離」「水際対策」

 高齢者やエッセンシャルワーカーよりもアスリートを優先することの倫理的な問題や選手へのワクチン接種に関する透明性や接種証明などの課題は、オリンピックに参加する全ての国々も視野に入れると非常にハードルが高いのではないか。10万人近い海外からの選手や関係者を、隔離もなく、不完全なワクチン接種で感染を予防することは残念ながら限界があるだろう。

ADVERTISEMENT

 日本が五輪開催を目指すのであれば、昨年から、検査と隔離、そして、水際対策を徹底し、ワクチンも早期から確保・接種することでコロナを徹底的に抑え込むことが、五輪開催の必要条件であったはずだ。しかし、それは、いまだに実現していない。ワクチン接種も今のペースでは、到底間に合わない。逼迫している医療体制は、これ以上の感染拡大に対応することは難しい。

 コロナ禍でワクチンや医療供給体制を始め、我が国が長年にわたり抱え続けてきた多くの社会システムの限界が露呈した。五輪を中止し、コロナを収束させたうえで、将来の日本と世界のために社会システムの再構築に全力を傾けるのが我が国の目指すべき道ではないだろうか。

世界中の人がワクチンを受けるまで「コロナ禍は終わらない」

 菅総理は6月2日にワクチン・サミットを共催する予定という。コロナ禍を終わらせることが国際社会の最優先課題であり、先進国だけがコロナワクチンを受ければそれで済む話ではない。日本はG7伊勢志摩サミットで感染症危機管理の重要性を説き、国際組織「感染症流行対策イノベーション連合(CEPI)」の創設に大きな役割を果たした。

 CEPIは、市場原理が働きにくいパンデミック・ワクチンの研究開発を促進するための官民連携の組織であり、その投資先は新型コロナワクチンの開発に成功したモデルナやオックスフォード大学も含まれている。

 日本はこのようなグローバルヘルス(地球規模の保健課題)においては、先導的な役割を果たしてきた実績があり、国際的にも高く評価されている。日本の総理自らが「世界中の人がワクチンを受けられるようになるまではコロナ禍は終わらない」という重要認識を世界に示すことは素晴らしいことだ。

記者団の質問に答える菅義偉首相 ©️時事通信社

 世界はこうしたリーダーシップを日本に期待している。立谷秀清福島県相馬市長から新型コロナウイルスワクチン接種メディカルセンター長を拝命し、一日でも早くワクチン接種を進めるために現場で働かせていただく機会を頂いた。ワクチン接種を進め、コロナ禍を克服することこそが今の日本にとって最も大切な課題だと信じ、微力ながら様々な関係者の方々と連携を進め、「相馬モデル」を広めていければと考えている。

「オリンピックが開催できる状況ではない。その決定的理由とは」公衆衛生の第一人者が断言《渋谷健司氏緊急寄稿》

X(旧Twitter)をフォローして最新記事をいち早く読もう

文春オンラインをフォロー