感染対策と経済の対立では「出口」は見えない

 コロナ感染拡大が止まらない。それもそのはずだ。人の接触が減っていないからだ。人が移動し接触すれば、ウイルスは確実に広がる。2020年秋、筆者は2度目のロックダウン中の英国から一時帰国したが、隔離明けに東京の街に出た12月初旬には、その人出の多さに驚き、恐怖さえ感じた。その後、東京や各地の感染者数は激増している。

菅首相への提言を寄せた渋谷健司氏(WHO事務局長上級顧問) ©時事通信社

 筆者は自粛を回避するためには、検査・追跡・隔離を拡大し、感染拡大の早期に徹底的にコロナを抑え込むこと、それが最大の経済対策であることを繰り返し述べてきた。しかし、日本では、Go Toキャンペーンで旅行や外食を促し、その一方で国民へ自主的努力をお願いするという曖昧なメッセージが発せられてきた。これでは国民が混乱し、不信感が広がるのも無理はない。信頼こそがコロナ対策の上で、政府にとって最も大切な武器である。

 菅義偉総理は1月4日になってようやく緊急事態宣言の検討に入った。緊急事態宣言については、現行の法的枠組みでは強制力がほとんどなく、国民がコロナ慣れした現状では効果は限定的との指摘もある。また、多くの権限が与えられている東京都等がさらなる対策を進めておくべきだったとの批判もある。こうした点を踏まえても、感染者がここまで増加し医療が逼迫している以上、緊急事態宣言は当然だ。

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コロナ対策徹底のアジア圏諸国を見れば明らか

 しかし、スピード感と危機感に欠けていると言わざるを得ない。コロナ対策は数と時間との勝負だ。後手に回れば回るほど感染制御は困難になり、自粛やロックダウンを広範囲に、しかも長期間実施せざるをえなくなり、結果として、経済へのダメージがより大きくなる。

1月4日、年頭の記者会見で記者からの質問を聞く菅義偉首相 ©時事通信社

 世界的第2波を逃れ、経済を回しているニュージーランドや台湾、ベトナムなど徹底したコロナの封じ込めを行ったアジア圏諸国の経済状況を見れば明らかなように、「ゼロ・コロナ(市中感染をゼロ付近に抑え込む)」対策こそが経済活動を維持するために必須だ。日本のように「ウイズ・コロナ」で一定の感染を許容してしまうと、結局は自粛要請や緊急事態宣言を繰り返し、社会経済活動は悪化していくだけだ。