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「変異株でコロナ感染爆発。日本は英国の失敗をなぞっている」WHO事務局長上級顧問が緊急提言

「変異株でコロナ感染爆発。日本は英国の失敗をなぞっている」WHO事務局長上級顧問が緊急提言

今こそ「ゼロ・コロナ」への転換を

2021/01/07
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英国でも「時短営業」と「補償」を実施したが…

 では、国民が一丸となってこの危機を乗り切ることはもう難しいのだろうか。ファンクールト博士は、「それは可能だ」と言う。英国でも感染者が増加しロックダウンが実施されると、行動制限を守ろうとする人が実際は増えるという。政府のアクションを契機として、国民の間で危機を乗り切ろうという連帯感を創り出すことができるかがポイントとなる。

 だからこそ、今週発令されるであろう緊急事態宣言は、宣言自体の法的効果よりも、宣言とあわせて国民の心に響くメッセージを発することが極めて重要だ。国民の間で真に一時的な痛みを分かち合いながらこの国難を乗り切ろうという一貫した、分かりやすいメッセージが全てだ。筆者は「実質ロックダウンと思って生活すべきだ」と言うべきだと考える。

 日本では以前の「夜の街」と同様に、今回は「会食」がターゲットになっているようだが、英国では、早期のロックダウンの要請を拒否したジョンソン首相は時短営業と補償を9月に実施したが、それでも抑え込むことはできずに繰り返しのロックダウンに至った。飲食に限らず、より幅広い自粛を求める共感を呼ぶメッセージを発するべきではないか。

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年明けの1月5日に会見を行った英ジョンソン首相 ©時事通信社

 緊急事態宣言や自粛要請は最終的な解決策ではなく、医療崩壊を防ぐ一過性の劇薬だ。これを繰り返すことは社会や経済を疲弊させるだけであり、できるだけ短期間で一気に感染経路を遮断すべきだ。残念ながら、現在の日本の法的枠組みでは欧米諸国のように強制力のある措置はとれない。

 一方で、日本は長年にわたり災害と闘ってきた歴史を背景に、法的拘束力はなくとも、第1波の時にもみられたように、いざという時に一致団結して国難に立ち向かえる国民性があると思う。この国民性を活かすわかりやすいメッセージが、政府のトップから発せられることが今こそ重要だ。

ワクチン接種が始まっても終息まで数年はかかる

 コロナウイルスの遺伝子が解析されてわずか12カ月でワクチンが実用化されたことは、科学の勝利であり、コロナ禍でも希望を抱かせるニュースだ。今話題のモデルナやオックスフォード大学のワクチン開発に数年前から投資しているCEPI(感染症流行対策イノベーション連合)は、2016年の伊勢志摩サミットで日本政府のリーダーシップで設立された国際機関だ。今その投資が見事花開いている。コロナワクチン開発の陰に日本の支援があったことは強調しておきたい。

 優れたワクチンであることに間違いはないが、ワクチンが確保できているというだけで楽観できないことは理解する必要がある。数理モデル界のレジェンドであるロイ・アンダーソン教授も正常化には「数年はかかるであろう」と述べている。そう簡単には終わらないのが、パンデミックの脅威である。

ロックダウンのロンドン、ピカデリーサーカス ©iStock

 すなわち、確保されたワクチンをできるだけ速やかに供給し、より多くの国民に接種してもらうということが問題なのだ。しかも世界規模でだ。さらに、国民のワクチンへの信頼を確保することが非常に大切だ。しかし、日本は最新の国際調査研究では、ワクチンへの信頼度が世界でも最も低い国の一つだ。今後、政府や国民が一体となって乗り越えてほしいハードルと考えられる。

 だからこそ、基本に立ち返ることが必要だ。緊急事態宣言やロックダウンで大切なことは、出口戦略だ。私が世界の研究者と各国の出口戦略を分析した結果では、検査・追跡・隔離、強靭な公衆衛生、明確なコミュニケーション、長期戦略、そして、信頼が成功の鍵であることが示された。日本に最も欠けているのは「感染源」対策としての検査・追跡・隔離の徹底だ。そして、長期戦略の提示、政府への信頼の回復が急務だ。

 第1波以降進められるべき医療体制の拡充が遅れたとの批判も多いが、その通りである。そもそも日本の急性期医療はコロナ禍以前より、持続不可能な状態が続いている。病床数は多いが、その多くは高齢者やメンタルケア対応に充てられており、新型コロナに対応できる急性期医療は極めて手薄だ。中小病院が乱立し、非効率的な現状を改善するためには、統合と集約化が必要だ。医師は過重労働・超過勤務に陥り、最近まで大学病院では将来ある若手が無給で働き、休む間もなく週末のアルバイトで生計を立てていたような状態だ。コロナはそうした、日本的システムの矛盾をさらけ出し、現場の人々の自己犠牲に頼ってきた医療システムにとどめを刺そうとしている。全ての関係者が今回のコロナ禍を契機として真剣に考える問題である。

 現下のパンデミックは、人々の健康が、その国の社会や経済の礎であること、それを支える最前線の現場スタッフ、そしてエッセンシャル・ワーカーなしでは社会が成り立たない事実を、我々に教えてくれた。小手先の緊急事態宣言やワクチン供給で済む話ではない。今、我々に問われているのは、「命を守る」ことの重要性である。今こそトップリーダーが分かりやすいメッセージを出し、関係者が一致団結して国難に立ち向かう時だ。

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