文春オンライン

《IOCバッハ「犠牲」発言の波紋》渋谷健司氏緊急寄稿「日本は東京五輪を中止し、疲弊した医療を変革すべき」

2021/05/25
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「答えは完全に『イエス』です。緊急事態宣言下であってもなくても、安全かつ安心な大会が開催できるアドバイスを(世界保健機関などから)頂いている」

 5月21日の会見で、記者から「東京都に緊急事態宣言が発令されている状況になった場合、大会は開催しますか?」と聞かれた国際オリンピック委員会(IOC)のジョン・コーツ調整委員長は、質問にこう答えた。また、同委員会のバッハ会長は22日、「東京大会を実現するために、我々はいくつかの犠牲を払わなければならない。(そうすれば)選手は夢を間違いなく叶えることができる」と発言し、波紋を呼んでいる。

 先日行った「文春オンライン」のアンケート(《東京五輪は87.6%が中止・再延期すべき》「外食さえ制限」「人命を天秤には」コロナ対策優先の声多数)でも87.6%が「中止・再延期すべき」と答えたが、メディア各社の調査でも開催反対の意見が過半数を占めている。そうした中でのコーツ氏やバッハ氏の発言は、IOCの強硬な姿勢を印象づけた。

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 開幕まで約2カ月と迫った東京オリンピック・パラリンピック——。はたして日本はIOCの判断に身を委ねていいのか。公衆衛生や感染症対策の第一人者で現在相馬市新型コロナウイルスワクチン接種メディカルセンター長の渋谷健司氏は、「ワクチン接種も今のペースでは、到底間に合わない。逼迫している医療体制は、これ以上の感染拡大に対応することは難しい。五輪は中止すべきだ」と断言する。必読の緊急寄稿。(前後編の前編/後編を読む)

左からIOCジョン・コーツ調整委員長、菅首相、著者・渋谷健司氏 ©️事実通信社

今や英国よりも多い日本の感染者

 昨年来、政府の新型コロナ対策が後手に回り、マスク着用などの行動変容も国民の間ではなかなか浸透せずに、1月には1日の新規感染者数が約7万人に達するなど日本を大きく上回る被害を出した英国だが、ここに来て非常に大きな成果をあげている。5月20日には1日の新規感染者が2874人、死者が7人という水準になるなど、現在、第4波に見舞われている日本(新規感染者5721人、死者106人)よりも新型コロナを抑え込んでいる。

 英国では昨年9月から感染力が従来の約1.5~1.7倍という変異株が広がり始め、11月には2度目のロックダウンをせざるを得ない事態に陥った。しかし、12月初めに感染者数がまだ十分に下がり切っていないにも関わらず、クリスマス商戦を控え経済対策を優先したために、ロックダウンを解除してしまった。そこから変異株が急速に広がり1月初めをピークとする感染の大幅な拡大となり、3度目のロックダウンに至った。

閑散とするロンドン・リージェントストリート ©️iStock.com

 3度目の緊急事態宣言中の今の日本の状況は、この時点の英国と非常によく似ている。変異株が広がり始めている中で経済対策とのバランスに頭を悩ましながらも、感染者数が下がり切らないうちに2回目の緊急事態宣言を解除した後の再燃だからだ。