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《IOCバッハ「犠牲」発言の波紋》渋谷健司氏緊急寄稿「日本は東京五輪を中止し、疲弊した医療を変革すべき」

2021/05/25
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日本の医療は持続不可能なほど疲弊している

 大阪府では重症患者用病床数以上の重症患者数となり、十分な治療を得られないまま亡くなる方や自宅待機のまま急変して入院先が決まらないまま亡くなる症例もかなり出ているというニュースには本当に胸が痛む。変異株が日本中に広がりつつある今、関西のみならず各地での広範な医療崩壊の可能性が懸念される。

 日本の医療は優れており、感染者数も欧米に比べれば少なく、病床数も多いのに、なぜ医療がすぐに逼迫するのだろうと考える方も多いだろう。もっと医師の方々に頑張ってもらえないかという方もいるかもしれない。しかし、これは日本の医療が長年抱えてきた根本的な構造的課題が、コロナ禍で露呈したに過ぎない。

写真はイメージ ©️iStock.com

 そもそも、日本の医療は持続不可能なほど疲弊している。病床数が多いのは、精神科病床や本来は介護の対象となるべき療養型病床が多かったという歴史的経緯によるものだ。今は病院ではなく、地域でこうした方々をケアするのが世界の潮流だが、日本ではいまだに病院による対応の比重が高く、見かけ上病床数が多く見えている。

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 また、民間の中小規模の“総合”病院が乱立しているのが日本の弱点となっている。各病院に各科の医師が配置されているが、病院間でその質や利用状況に偏り・歪みがある。その歪みの影響を最も大きく受けている大学病院の若手は、平日はフルで働きながら人手の足りない夜間や週末の民間病院でのアルバイトで生計を立てている方が多い。

 地域ごとに、各科ごとに特定の病院の機能を明確化し集約していけば、歪みが是正され医師の方々の人的資源を効率的に活用することができ、こうした歪みも解消していけるはずだが、乱立する中小病院間・地域間でマクロ的視点から人員配置を見直すのは容易なことではない。

人工呼吸器 ©️iStock.com

 こうした「広く、薄い」という我が国の病院機能の弱点は、医師の勤務環境を悪化させるだけでなく、急激な医療需要を生み出す新型コロナへの対応を難しくするという側面ももつ。特に、コロナ患者の人工呼吸器の管理は医師が1人で対応できるものではなく、重症者がベッドを埋めれば、医師、看護師、その他のスタッフはその患者にかかりきりになる。