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「オリンピックが開催できる状況ではない。その決定的理由とは」公衆衛生の第一人者が断言《渋谷健司氏緊急寄稿》

2021/05/25
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英ジョンソン首相は支持率回復。人々の表情も明るく

 英国の場合、日本よりも強力なロックダウンができるが、逆に、制限を緩めるとすぐに人が密集し、マスクをしないなど、人々の行動のコントロールは難しい。感染経路の遮断を目的とした「国民の我慢」に頼る対策のみでは限界があることは明らかであった。

 英国ではワクチン接種と検査の拡大を軸とした「正常化への道」、そして、ロックダウンからの出口戦略(ロードマップ)が国民に明確に示されることで、国民は安心を得ることができており、日に日に人々の表情も明るくなっているのが印象的だ。そして、感染抑制効果が明らかになるにつれて、昨年11月には34%と低迷していたジョンソン首相の支持率も、5月10日の世論調査では48%と大きく回復している。

写真はイメージ ©️iStock.com

 日本では英国的なロックダウンはできないが、3密回避などの行動制限やマスク、手指消毒など感染経路の遮断を目的とした人々の自主的努力や飲食店への休業要請、そして、症状のある感染者のクラスター対策を軸とした対応を行ってきた。しかし、結局、自粛と緊急事態宣言を繰り返す結果となり、検査拡大と水際対策による「ゼロ・コロナ」戦略を取ったニュージーランド、豪州、台湾、中国、ベトナムのような成果を上げることはできなかった。

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日本政府は「ロードマップ」を示せ

ロックダウン下のロンドン・コヴェント・ガーデン ©️iStock.com

 特に、これまでの対応の限界や医療提供体制の構造的課題が、感染力の高い変異株による第4波で露呈した。緊急事態宣言を発令しても、国民の側が「今回も効果はない」と不安を募らせ、我慢しているのに報われないため、自粛疲れや不満が強まっており、国民の自主的努力に頼る政策の効果はより限定的になっている。また最前線で戦う医療関係者の皆さんも限界に来ていることだろう。

 何よりも、自粛と緊急事態宣言を繰り返すことで社会経済が疲弊している。こうした時こそ、政府は「ロードマップ」のような形で先の展望を示すことが重要であり、ワクチンの迅速な接種や検査拡大など、国民の自主的な努力のみに頼らない積極的な政策を推進すべきだ。構造的な弱点を抱えていた我が国では、こうした有事対応の将来スケジュールを詳細に設定するのには様々なハードルはあると思うが、今からでも是非トライしてもらいたい。