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「ハルシオン1000円。デパスが…」深夜1時に開店する大阪・西成「泥棒市」の露天商を直撃

「西成で生きる この街に生きる14人の素顔」#3

2021/05/29
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 綺麗ごとを言っているが、実際に伊藤さんも泥棒市で睡眠薬などを売っているひとりには違いはない。

――あそこで伊藤さんみたいにクスリを売っているのって何人くらいいます?

「ピンからキリでしょうけど、だいたい10人とか?」

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――そんなにいるんですか。“眠剤ある? 眠剤ある?”って客は言っていますよね。

「立ちんぼって言われますよね。立ちんぼしてる人は一緒にDVDとか売ってるね。暗黙の了解でやっていますよね」

©️花田庚彦

――摘発されても薬事法(現・薬機法)だから、すぐ出てきますよね。

「そうですね」

――だからまたすぐ立ちますよね。

「それはホンマのことですね。どうせ罰金ですむから。こういう感覚ですわ」

なぜわざわざ「泥棒市」でクスリを買うのか?

――向精神薬を使っていると、“麻薬及び向精神薬取締法”もついちゃうじゃないですか。それがつくと危ないですよね。だから導入剤とか眠剤は持っていても、向精神薬にはいきませんよね?

「危ないですね。買い手が怪しいと持ってないと言いますよね。ユーチューブの人間も最近来ますしね。

 私は利益を目的としてないんで。僕は仕事もしていますからね。ゆうたら買い手はわかっているからね。売り手も悪いけど、買い手も悪いことしているって分かって買っているからね。処方されてないんだから。買い手側が一番悪いんだから。クリニック行ったらいいやんか、こうなるんですね」

 実際に睡眠薬と向精神薬とでは法律上の扱いが変わる。

 それを知らない素人の立ちんぼが一緒に並べて売っていることも多いが、慣れている立ちんぼは向精神薬は奥に隠しているのが常識となっている。

 末端への売り値は数百円も変わらないが、日本での刑罰の取り扱いが変わるので、手慣れた人間は奥に隠しているのだ。

©️花田庚彦

――確かにクリニックに行けば処方してくれるのに、なぜ泥棒市に来るんですか? 眠れないといえば、弱い薬からくれるじゃないですか。

「医者はクスリの量を調整しますからね。買い手側は医者に行って長い時間待たされるじゃないですか。それが嫌なんですよ」

――クリニック行けば保険適用だし安く買えるじゃないですか。なぜなんでしょう?

「そこはね、僕も謎のままなんですよ。自分がもらえない、処方してくれない、出禁になって行く所がない、医療費が高い。保険料の点数が高い。一番の理由は保険料を未納している人間が多いんでしょう。

 そういう理由があって、一部の人が買い占めているんじゃないでしょうか。あと最近はインターネットの売人が多い。インターネットで売られているのは本当ですわ」

 実際にSNSで売られている睡眠薬や向精神薬などは、主に泥棒市でまとめて買う人間から出ているケースが多いであろう。