“人が最後に流れ着く街”と称される大阪・西成で暮らす人々は、普段どんな生活をしているのか――。西成の街を徹底取材し、労務者に仕事を斡旋する手配師、非合法薬物を売りさばいた元売人、簡易宿泊所“ドヤ”の管理人、元ヤクザの組長、さらには元シャブ中の男性までインタビューしたフリーライター・花田庚彦氏の著書『西成で生きる この街に生きる14人の素顔』(彩図社)が版を重ねている。
西成の人々の素顔と本音に迫った本作から、一部を抜粋して転載する。(全3回の1回目/#2、#3を読む)
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西成で仕事を斡旋する「手配師」の実態とは?
大阪・西成の朝は早い。
夜が明ける前から仕事を斡旋する人間、仕事を求める人間たちは取り壊されることが決まってはいるが、未だに西成のシンボルとなっているあいりんセンター周辺に集まる。
そこではいい条件を求める労働者と、いかに安く人を使うことができるかの手配師が集まり、品定めならず人定めをしているのだ。
一歩間違えると地獄のような飯場へ行ってしまうという駆け引きが、夜明け前から行われている。
太陽が昇ったころには、仕事を斡旋された労働者は現場に行くバスやバンに乗り、運がいい人間は支給された弁当を食べることが許されているのだ。
今回は“いい手配師”と“悪い手配師”の両方に接触することができたので、それぞれの立場からの仕事や人に対する考えを語ってもらった。
まずは、いい手配師からだ。
「手数料を抜きたくなかった」
――名前を教えてください。
「上村です」
仕事を探している西成の労働者に、上村さんを知らない人はいないであろう。外見的な特徴と誠意のある人間性で、現場に仕事を斡旋している人物だ。
――いま人夫出しをされていると紹介を受けたのですが、何人くらい労働者を抱えているのでしょうか。
「ぼくが抱えているのは15人くらいですよ。そんなに抱えても実質面倒見切れないので」
――車いすに乗ってセンターの方に行くんですか。
「基本ぼくはやる気無かったんですよ。元々現場出とった職人なんですよ。脳梗塞で倒れて入院している間も元請けから職人を紹介してくれ、と電話かかってきて。それが積もり積もってこうなったんですよ」
話の通り、上村さんは車いすに乗っている。
その姿は西成の取材中に何度も見かけた。
実際に身体障害者手帳を持っているが、それでも現場から要請があり、労働者を斡旋しているというのは、現場との信頼関係がキチンと築けている証拠であろう。
当然手配師というのは金銭を抜かないと商売にならない。それは繁華街の街頭に立っているスカウトと同じである。
その質問を正直にぶつけた。
――ひとりどれくらい抜いているんですか?
「ぼくは最初抜いてなかったんですよ。抜くってどういうことって。ぼくを頼ってきている人とか、真面目な労働者の人たちからお金を取る行為が理解できていなかったですね。だけどぼくも日雇いやっていたときに抜かれて嫌な思いをしていたのを思い出したりしてね。だからぼくは働いてないんやからいいですわ、言うてたんですけどね」