“人が最後に流れ着く街”と称される大阪・西成で暮らす人々は、普段どんな生活をしているのか――。西成の街を徹底取材して、労務者に仕事を斡旋する手配師、非合法薬物を売りさばいた元売人、簡易宿泊所“ドヤ”の管理人、元ヤクザの組長、さらには元シャブ中の男性までインタビューしたフリーライター・花田庚彦氏の著書『西成で生きる この街に生きる14人の素顔』(彩図社)が版を重ねている。
西成の人々の素顔と本音に迫った本作から、一部を抜粋して転載する。(全3回の3回目/#1、#2を読む)
◆◆◆
クスリ売りが語る「泥棒市」のリアル
ひと昔前は南海線の高架下で大々的に行われていた“泥棒市”。
いまは規模が小さくなり、平日は数店舗しか出ていない泥棒市でその男と出会った。
“薬局”と呼ばれるクスリ売りの男に路上で接触し、インタビューの約束をその場で取り付けて、筆者が泊まるホテルのロビーが新型コロナウイルスの影響で人が少なく機密性が高いので、その場所を選び、取材を快諾してくれた伊藤さん(40代・仮名)に足を運んでもらった。
「どうせ罰金ですむから。こういう感覚ですわ」
――伊藤さんということでいいですか?
「名刺いただけますか。あ、東京の方ですか」
――伊藤さんが仕入れているんじゃなくて、普通の方の仕入れ先はどこなんですか。みんな生活保護受給者ですか?
「この街はね、生活保護の受給者が多いですわ。昔インターネットで、大型匿名掲示板にのってますんで、そこにずばっと書いていますわ。クスリの仕入れ方法など。そこにここの人は生活保護受給者を食い物にしているとか書いてますわ。正直いうてそこから仕入れたものだとかね」
そこに書かれていたのは、今では常識になっているが、不特定の生活保護受給者から睡眠薬や睡眠導入剤などを安く買い叩いている仕入先、つまりクリニックだ。
――だいたいワンシートいくらくらいですか?
「その時は、インターネットの時代でしたからね。掲示板で売買。俺も元はその中の1人ですわ。前はエリミン、リタリンの時代でした。リタリンはものすごい売買して売り上げていましたね」
ワンシートとは10錠のことである。
エリミンは使用方法によっては酩酊感を得ることができる睡眠薬であり、リタリンは覚醒剤に似た効果が得られると言われている神経系の薬だ。これらは一部の病院でしか処方されないため中々市中には出回らず、出回ったとしても高値で売買されている“闇のクスリ”だ。
実際に入手するのは処方箋のなかでは一番難しい種類ではないだろうか。
――色々なクリニックに行き売り物になるクスリをもらって、ワンシートいくら、で売っているんですよね?
「僕はキチンと処方されているんですよ、病気とか事故とかで。だけどもう飲まないから。処方してもらっても、もう飲む時と飲まない時の差がある。だから譲っている感じですね」