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「ドヤの一室に切り刻んだ死体を置いとった」大阪・西成の手配師が語った“地獄のような飯場”

「西成で生きる この街に生きる14人の素顔」#1

2021/05/29
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 大内さんは否定したが、周囲から聞いた話では大内さんは労働者を売って対価を得ていた。

 それはひとり1日2、3000円で1ヶ月という契約での金額だが、まとまれば大きい金額であろう。安く見積もって2000円として、1ヶ月25日計算でも5万円という金額になる。大内さんが10人派遣しているのが事実なら、50万円という金額が毎月入ってくる計算になるのだ。

 それを毎日あいりんセンターに来て、労働者を見つけるのではなく、寮に入れる人間だけを探して遠い現場に派遣していたのだ。

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 当然仕事を辞めたい人間はいるであろう。

 人身売買や強制労働は当然法律で禁止されており、これを破ると重い処罰があるが、大内さんはそれを強い口調で断固否定した。

「原発も人を仰山送ったな、日当がいいからすぐ集まる」

――今までどんな現場に労働者を派遣しましたか?

「原発も孫請けで人を仰山送ったな、あれは日当がいいから人が集まるんや。それこそ募集したらすぐに人が集まりよる」

 どんな現場でも派遣するという周囲の評判のひとつに原発の仕事があるのであろうか。

 日当が高いという評判だった東日本大震災の原発事故の作業員。果たして大内さんはいくらで派遣していたのであろうか。

――原発は日当がいいと聞いたことがありますが、いくらくらいだったのですか?

「日当は1万2000円やね、寮費も掛かるやろ。原発やから寮費はワシが出しとったな。遠方だから交通費なんかも掛かる」

 あの当時の原発は、誰しもができれば行きたくないと思っていたために、高い賃金を払って雇っていた。きっと元請けはその倍以上の高い値段で請け負ったに違いない。大内さんは元請けから遠い立場なのは想像できるが、それでも大きく抜いたのであろう。ワシが寮費を払った、と大内さんは言い放ったが、当然それを払っても痛くも痒くもなかったからであろう。

あいりんセンターの周囲には今も立っている

 大内さんの人夫出しの仕組みは分かった。

 初めに借金を労働者に背負わせた上で、人を派遣しているのだ。上村さんとの大きな違いは、派遣された労働者を守るのではなく、いかにして労働者から搾取するかを考えている点だ。

 もちろん上村さんも人を派遣して金銭を抜いている人夫出しだ。しかし仕事に対する情熱や誠意を考えれば、それは当然の対価であろう。

 毎日抜いているか、まとめて抜いているかの違いもあるが、労働者の気分では毎日気持ち良く安全な現場に派遣されたほうがいいだろう。

 上村さんが初めに語った“あくどい人夫出し”というのは大内さんのような形態を取っている人であろう。

 そのような人夫出しはあいりんセンターの周囲には今も立っている。

 また、大内さんのような人夫出しが普通の姿と言えるのが西成の姿である。

#2に続く)

西成で生きる~この街に生きる14人の素顔

花田 庚彦

彩図社

2021年3月27日 発売

「ドヤの一室に切り刻んだ死体を置いとった」大阪・西成の手配師が語った“地獄のような飯場”

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