昭和34年(1959年)創刊の総合週刊誌「週刊文春」の紹介サイトです。最新号やバックナンバーから、いくつか記事を掲載していきます。各号の目次や定期購読のご案内も掲載しています。

「かなり焦っていました」報道が取りやめになった野中広務“追及記事”…記されていた“疑惑の関係”とは

『泥のカネ 裏金王・水谷功と権力者の饗宴』より #33

2021/05/31

source : 文春文庫

genre : ニュース, 社会, 政治, 経済, 読書

 一般には知られていない中堅ゼネコンの社長にもかかわらず、永田町では知らぬ者のいない有名人だった男が、2020年12月17日に帰らぬ人となった。その男の名前は水谷功。小沢一郎事務所の腹心に次々と有罪判決が下された「陸山会事件」をはじめ、数々の“政治とカネ”問題の中心にいた平成の政商だ。

 彼はいったいどのようにして、それほどまでの地位を築き上げたのか。ノンフィクション作家、森功氏の著書『泥のカネ 裏金王・水谷功と権力者の饗宴』(文春文庫)より、芸能界でも幅を利かせていた男の知られざる正体に迫る。(全2回の1回目/後編を読む)

◇◇◇

野中広務「政界引退」の理由

〈野中氏元秘書に5000万提供 ニチメン詐欺被告側が大半〉

 共同通信がこう題した記事を配信したのは、03年8月20日のことだった。全国の地方新聞社が加盟し、記事を配信する共同通信は、日本最大の通信社だ。言うまでもなく、タイトルにある野中氏とは、元自治大臣の野中広務である。総合商社「ニチメン」の詐欺とは、6億円あまりの手形や現金をだまし取ったという事件だ。大阪府警が土木工事会社「都市工学総合研究所」元社長の後藤丹後之介を逮捕した。その刑事被告人から野中の元秘書が現金提供を受けていたというのが、この記事の趣旨である。

野中広務氏 ©文藝春秋

 折しも、自民党総裁選を間近にひかえたさなかの出来事だ。人気絶頂の首相、小泉純一郎が再選を目指した。これに対し、小泉改革に反発する亀井静香や橋本派の藤井孝男、高村派の高村正彦といった3人が総裁選に出馬し、党を二分する選挙となる。最大派閥だった橋本派の青木幹雄が、40人の参院議員を引き連れて小泉支持を打ち出す一方、同じ派閥の野中は藤井を推した。小泉支持に回った青木らに対し、野中は「毒まんじゅうを食らった」と罵倒し、物議を呼んだ。

 くだんの共同通信の記事は、そんな激烈な選挙の渦中のスクープである。当然ながら野中はみずからの足元が揺らいだ。そして、記事が配信された直後の9月、唐突に政界引退を発表してしまうのである。まさしく自民党総裁選さなかの引退表明であり、共同通信の特ダネが自民党実力政治家に引導を渡したといえる。記事はこう書かれていた。
 

〈自民党の野中広務元幹事長が自治相や官房長官当時、秘書官を務めた加藤芳輝元秘書(47)が1992-98年、総合商社「ニチメン」(東京)巨額手形詐欺事件の被告が会長だった電子機器メーカー「帝菱産業」(大阪)やゼネコンから計5000万円余の提供を受けていたことが20日、関係者の話で分かった〉

 ここに登場する加藤とは、野中が長いあいだ金庫番として頼ってきた秘書である。自治大臣時代の政務秘書官も務めているが、01年に野中事務所から独立し、その年の6月におこなわれた都議会選挙に世田谷区から出馬した。落選したものの、永田町では野中の懐刀として知られてきた。