参院選の陣中見舞いという名目
ゼネコン業界にとって、政治献金は往々にして選挙が名目になる。小沢事務所の大久保が要求したのか、それとも水谷の指示で川村がみずから運んだのか。いずれにせよ、あくまで参院選の陣中見舞いという名目が立つ。が、その実、水谷側にとって、3カ月後の10月には、胆沢ダムの本体第一期堤体盛立工事が予定されていた。500万円の献金は、工事を請け負うための挨拶料のようなものだともいえた。実際、これまで見てきたように、500万円という額なら、挨拶料、あるいは手付金の相場でもある。
その本体工事の第一弾は、本命の鹿島建設を筆頭にした共同企業体(JV)が落札した。実に最終契約額274億円の大工事である。おまけに工事はこの先何段階にも分かれて発注される。水谷建設のような土木の下請け業者たちにとっては、勝負どころだ。ライバルの宮本組や山崎建設、丸磯建設なども、虎視眈々と狙っている。水谷にとって工事を受注するのは、そうたやすくはない。
裏献金の狙い
全日空ホテルにおける二度の裏金工作は、このような事情が下敷きとなって画策されたのだろう。小沢事務所への裏献金の背景には、業者同士の受注合戦という事情がある。基礎掘削工事では、前田建設の下請けとして、業界のドンである鹿島建設からの承諾を得た。そこから次は、鹿島の下請けに入って本体工事を受注したい。それが裏献金の狙いだ、と水谷建設元首脳が述懐する。
「最初の5000万円のときは、川村も相当慌てていたと思う。大久保から受け渡しの連絡があったんは、海外出張している最中やった。いつもなら桑名の本社へ戻ってから出直す。しかしその余裕がなかったから、金を東京にとり寄せたんや」
水谷建設の元首脳が、献金の模様を詳述する。
「川村に5000万円を届ける役目は、桑名で川村の隣に住んでいる水谷建設の役員やった。出金したのは財務担当の中村やと聞いたで。5000万円を受け取った役員は、クロネコヤマトの宅急便の袋に現金を詰め、新幹線に飛び乗ったらしい」
水谷建設の裏金は、クロネコヤマトの茶色の紙袋で持ち運ぶことが多いという。数千万円程度なら1万円札の束がすっぽり入るうえ、宅配向けにビニールコーティングされているので丈夫だからだそうだ。元首脳が現金授受の情景を思い浮かべる。