青木野枝の作品は、鉄板を溶断したパーツが無数に組み合わさってかたちを成していく。重みある素材が彼女の手にかかると、重力から解放されたように浮かび上がる。近年は石膏やガラス、石鹸などでの作品づくりもおこなう。
三沢厚彦は2000年から動物をモチーフとした「ANIMALS」シリーズを発表し続けてきた。クスをノミで彫り出し、油絵具で彩色した勢いある作品の存在感は稀有。今展でも会場の中心にドンとキメラをモチーフにした巨大な木彫が鎮座して、展示空間全体の「重し」と「基点」になっている。
西尾康之の制作技法は「陰刻鋳造」というユニークなもの。指で粘土を押し込める軌跡のみでつくった雌型に、石膏を流し込んで造形するのだ。近年はヴァーチャル空間内で彫刻を成立させようとする試みにも励むが、今展ではイエスの姿を造形した《磔刑》を出品。空間内に生々しく立ちはだかっている。
素材、技法、表現…多様な手法で表現された作品たち
日本の伝統的彫刻技法たる「一木造り」で長年、手足が異様に長く繊細な面持ちをした少年少女像など人体像を中心に制作を続けてきたのが棚田康司だ。その人体表現は、人間存在の危うさと不安を表しているのか。今展に出された《2020年全裸の真理》は、グスタフ・クリムトの名画《ヌーダ・ヴェリタス》に描かれた女性像をモチーフとする。絵画の中の人物像が、三次元空間に浮かび上がってきたかのよう。
須田悦弘の小さい草花をかたどった彫刻は、すこし離れて見るとどうにも本物にしか見えない。細密さが際立つ作品はごくさりげなく空間内に配されているので、存在に気づくだけでうれしくなってしまう。
小谷元彦はありとあらゆる素材・メディア・方法論を駆使して、彫刻表現の拡張を試み続けているアーティスト。会場入口付近に聳える巨大な作品《Torch of Desire--52nd Star》は、20世紀米国史の一場面から題材をとり、そこに彫刻の歴史も重ね合わせてある意欲作だ。
日用品などを組み合わせるなどして制作するのが金氏徹平。会場のスロープの途上に設置された《S/F(Sculpture/Fiction)#1》は、立体をコラージュした様子を写真に撮り、引き伸ばして立ち上げることで、二次元と三次元を行き来するようなイリュージョンの世界を現出させている。
長谷川さちは学生時代に石という素材に出逢って以来、堅い素材にノミをふるってきた。その手仕事によって石に内在する力が露わになって、作品を観る側にも無機的な石が多くを訴えかけてくるようになるのだ。