彫刻の愉しさを「全方位」に引き出す
以上の11人、いずれも現代の彫刻表現を背負って立つ面々だけに、なんとも多様かつ強烈な個性を放つ。よくぞひとつの空間での展示が成立したものと感心してしまうが、そこには多大な工夫があったよう。
同展を監修した三沢厚彦は、多彩な作家・作品をひとつに包むための言葉を造り、展覧会タイトルに据えた。それが「オムニスカルプチャー」だ。オムニとは英語で「すべての」といった意味を表す接頭語、スカルプチャーは彫刻の意。三沢が彫刻の「全方位性」を捉え、生まれた言葉である。
たしかに彫刻とは本来、「全方位」性を色濃く持っている。絵画や映像と違って前後左右上下、360度どの角度から眺めてもいいのだから。また、彫刻は素材や技法のバリエーションが多く、石や鉄、木に粘土、紙やアルミだって使えるという自在さがあるのは、今展に集った彫刻家を見てわかる通り。
三沢はさらに、展示構成づくりを旧知の画家・杉戸洋に依頼した。杉戸といえばアーティストの中でもとりわけ空間に対する独自のセンスと嗅覚を持ち、自作展示に際して卓越した「場づくり」をすることで知られる。
吹き抜けになっていたりスロープが付いていたりする個性的な展示空間を、杉戸はみごと「どこにいても彫刻を感じられる場」にしてみせた。11人の彫刻家の作品は、分けるよりも混ぜ合わせる方向で配されて、全体がひとつの作品であるとも言えそうな一体感が醸し出されている。まるでそこに、深い深い彫刻の森が出現したような感じだ。このように場と彫刻が一体となり共振できることもまた、彫刻の全方位性といえるのだろう。そうした彫刻の「オムニ」な特性を改めて全面に押し出したのが、この展覧会だったというわけだ。
来訪者は会場内をうろつくほどに、彫刻と触れ合うとはこういうことだったのかという新しい体感を重ねていく。展示をひとめぐりするころには、彫刻という存在がきっと以前よりかなり身近になっている。言葉として知っているだけじゃなく、触れ合い交わったことのあるものとして感じられるはずだ。
(撮影:KEI OKANO)