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 NCT 127やIZ*ONE、ATEEZなどのグループは新曲発表時にダンスカバーコンテストを開催し、YouTubeにアップされたダンス映像の中から優秀作品を本人たちが直接選ぶリアクション動画も配信した。自分のダンスが本人に認められるのはファンにとってはたまらないだろうし、アップされる多くのカバーダンス映像は新曲の宣伝にもつながる。この方式は、YGエンターテインメントがWINNERの「BABY BABY」を他のアーティストにカバーして歌ってもらい、リリースに先行して公開したプロモーションと同じ発想から来ているのだろう。

TV番組から火が付いた、進化系のランダムプレイダンス

 カバーダンス自体も年々アップデートされ多様化してきている。最近では「ランダムプレイダンス」と呼ばれる大人数自由参加型の映像が増えている。一定のメンバーで練習した1曲を披露するという従来のカバーダンスと違う点は、その日その場に集まった不特定多数の人たちが、DJがランダムに流す音楽の中から自分の知っている曲がかかった場合に前に出て踊るというものだ。何の曲がかかるのか、誰と一緒に踊ることになるのか、すべてはその瞬間の偶然で決まる。

 K-POPのカバーダンスで有名な韓国のYouTuber・GoToe(チャンネル登録者数は2021年1月時点で204万人)は、ランダムプレイダンスのイベントをデンマーク、イタリア、アメリカ、タイ、インドネシアなどの世界各地で開催し、現地のK-POPファンを告知した場所に呼び集め、大勢でランダムプレイダンスする動画を配信している。ニューヨークのワシントン・スクエア公園でGoToeが開催した際には、アメリカツアー中だったNCT 127のメンバーがサプライズ登場し、その様子はNCT 127の公式チャンネルからも配信された。他にもSEVENTEENのホシが、アメリカでのライブ会場前で地元のファンたちによって行なわれていたランダムプレイダンスに飛び入り参加したこともあった。

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GoToe氏が配信したランダムプレイダンス動画では「NCT 127」メンバーがサプライズ登場した

 このランダムプレイダンスの起源は、韓国のMBC Every1で放送されているバラエティ番組「週刊アイドル」だと考えられる。ゲストで出演するアイドル一組の実力をさまざまな方向からクローズアップするなかで、「群舞ドル(踊りがきっちり揃っていて見ごたえのあるアイドル)」かどうかを判定するために、ランダムに流れるヒット曲を踊ってもらう企画コーナー「ランダムプレイダンス」が2012年頃からスタートしたのだった。

©iStock.com

 自分の持ち歌だけではなく別のアイドルの楽曲にも臨機応変に対応して踊るというもので、ときには知らない曲を即興で乗り切ったりと、練習した曲では見ることのできないアイドルの慌てる様子や意外なダンススキルがファンの目には新鮮に映った。こうして火がついたランダムプレイダンスはファンのあいだでも楽しまれるようになり、踊る側であろうと観る側であろうと「K-POPダンスを愛する人」という共通点だけで集まった人たちに、予定調和ではないリアルな場ならではの興奮と一体感を与えているように思う。

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K-POPはなぜ世界を熱くするのか

田中絵里菜(Erinam)

朝日出版社

2021年4月3日 発売