BTS、EXO、BLACKPINK、TWICE……いまや韓国人音楽グループが世界中のリスナーから愛されていることは疑いの余地がない。彼ら彼女らは一体なぜ熱狂的なファンを各国で獲得できたのだろうか。そのひとつにK-POPにおけるダンスの魅力があると解説するのが、フリーランスのデザイナー・ライターとして活動する田中絵里菜氏だ。

 ここでは同氏の著書『K-POPはなぜ世界を熱くするのか』(朝日出版社)の一部を抜粋し、K-POPグループが、いかに“ダンス”をうまく活用しているのか紹介する。(全2回の1回目/後編を読む)

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「模倣」から生まれるオリジナリティ:カバーダンス

 K-POPの「カバーダンス」といえば、いわゆる第二次K-POPブームの2011年頃、少女時代のダンスをカバーして日本のテレビ番組に出演していた「遠藤時代」が思い出される。「遠藤時代」の場合はダンサーたちが仲間で集まって活動していたが、現在K-POPのカバーダンスは一般の人々にも広く浸透している。

 日本で代表的なK-POPカバーダンスフェスティバル「DREAM ON!」も、同時期の2011年にK-POPのコンサート会場周辺で少女時代のダンスを真似するファンを見たことをきっかけに始めたそうだが、今では毎回250~300組もの参加申請があり、韓国から芸能事務所がスカウトに来るほど参加者の実力も高い。日本国内ではほかにも「KP SHOW!」や、各大学のK-POPダンスサークルが参加するもの(そもそもK-POPに限定したダンスサークルが複数の大学に存在している時点で、今の日本におけるK-POPの受容のされ方に隔世の感を禁じえない)、全国各地のダンススクール主催のものなど、多数のカバーダンス大会が存在する。さらに日本初のダンス専門チャンネル、その名も「Dance Channel」内では、ストリートダンス、社交ダンス、チアダンスなどに並び、ダンスのいちジャンルとしてK-POPが扱われている。

©iStock.com

「ダンスをカバーする」という文化はもともとK-POPに特化したものではなかったと思うが、YouTubeで「dance cover」と検索すれば、そのほとんどがK-POPアイドルのカバーダンスなのがわかる。それほどまでにK-POPファンにカバーダンスが浸透したのには、K-POPにキャッチーで真似したくなるような振付が多いことや、見た目や仕草から好きなアイドルに近づきたいというファンの憧れが大きな要因だと思う。

 カバーダンスコンテストを見に行けば、振付だけではなく、衣装やヘアメイク、指先の動きまで本人たちとそっくりなダンサーが多く、「DREAM ON!」主催の清水正巳さんに理由を聞けば、アイドルが音楽番組で着用していたものに似た衣装をわざわざ中国の工場に発注している人もいるからだという。カバーダンスは単なるカバー以上の価値を持ち始めていて、YouTubeには1000万回再生を超える一般人によるカバー映像がごろごろ存在する。各都市の名所で撮影された作品はさまざまな土地にいるK-POPファンの存在を可視化しているし、国や性別を超えたカバーは本家では見られないダンスの魅力を新たに引き出している。