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「心失者」という造語

 植松は、2016年7月26日、相模原市の知的障害者施設「津久井やまゆり園」で、入所者19人を殺害、26人に重軽傷を負わせた。

 衝撃的だったのは、彼がその施設に3年以上勤務した元職員だったこと。そして何より「意思疎通のとれない障害者」を、「心失者」という造語で呼び、「心失者は社会に不要な存在であり、不幸をばらまく元である」などと主張し続けたことだ。

事件当日の障害者施設「津久井やまゆり園」 ©共同通信社

 しかし、裁判では、そう主張する植松こそが、「不幸をばらまき、社会に不要な存在である」と宣告されたに等しい状況となった。彼が今後、その現実とどう向き合っていくのか、それを見続けることは、社会にとっても大きな意味があるはずだ。

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「こうしてみなさんと会えなくなるのは、さみしいし、かなしいです」

 植松が神妙な顔つきでいう。

「この3年間、いろんな人と面会したことは、植松さんにとってどんな体験でしたか?」

 私が聞くと植松は、「すさまじい価値。お金では買えない価値でした」。

 名残惜しそうな口ぶりでいった。

“陰謀論”に感化されていった

 しかし一方で、その頃の植松がしきりに口にしていたことがある。

「自分は、死刑では死ぬ気がしない。死刑になる前に、日本が崩壊するからです」という。

 植松によると1年ほど前、拘置所の壁がバラバラと崩れ去る光景が脳裏に浮かび、それはまさに「イルミナティカード」に描かれていた予言の通りだと直感したのだという。

「6月6日か7日に、首都直下型地震で首都圏が潰滅します。だから、青森より北か、山梨より西に避難してください」——そういって真顔で私たちに忠告するのだった。

 植松のこうした妄想とも幻覚ともつかない言動は、別にそのとき始まったものではない。事件の1年ほど前から急速に彼は、「世界を裏側から牛耳っているのは、イルミナティという秘密結社の存在である」という、いわば“陰謀論”に感化されていった。最初はテレビのバラエティ番組でその存在を知り、その後ネット検索でさまざまな情報に触れるうちにのめり込んでいったのである。

 裁判の被告人質問のさいにも、彼はイルミナティについての自説をとうとうと語り、「横浜には原爆が落ちると描かれています」といった。

 弁護人が、「それもイルミナティカードに描かれているんですか」。

 そう尋ねると、「いえ、それは『闇金ウシジマくん』というマンガに描かれています」と答えた。

 そんな珍問答が延々と繰り広げられる光景に、傍聴人も「気は確かか」と首をひねったものだった。