三体星人が地球へ向かっていることを知った一部の地球人は、「地球三体協会」を立ち上げた。彼らの多くは葉文潔のように人類文明に絶望した人間で、三体星人による地球文明の絶滅を望んだ。同志を募るために、彼らは知識人向けに「三体」なるVRゲームを開発した。しかしそんな「地球三体協会」も、やがて主張の相違により三つの派閥に分裂した。
第一部は叙事詩の序章
そして2010年代、本作の主人公・汪淼はVRゲーム「三体」のプレイヤーになり、三体星人襲来の事実、そして地球三体協会の謎を暴くことに成功し、クライマックスである「古箏作戦」を経て三体文明に関する詳しい情報も入手した。しかし三体星人が地球に近づきつつあることに変わりはなく、地球人は科学的発展を望めない状況でそれを迎え撃たなければならない。というところで、第一部・完である。
もし『三体』シリーズを、地球人類が宇宙に進出し、宇宙の秘密に迫るプロセスを描く叙事詩として捉えるならば、第一部『三体』は単なる序章に過ぎない。しかし言うまでもないが、この「序章」にもエンタメ小説としての要素が十分に備わっている。更には続編に見られない、歴史に対する克明な描写が含まれているという点も十分注目に値する。異星人襲来という主旋律、地球人の闘争ドラマ、ハードSFの根幹をなす科学理論の数々ももちろん面白いが、『三体』における文化大革命のエピソードは、他のどの巻のどのエピソードよりも、人類の業というものを痛感させるものがある。特に文化大革命の終結後、葉文潔が自分の父親を殺した4人の紅衛兵(のうちの3人)と再会するシーンが圧巻であり、溜息なしには読めない。結局のところ、加害者である紅衛兵たちもまた、歴史の濁流に翻弄されるちっぽけな存在に過ぎなかったのだ。
後でも述べるが、『三体』シリーズにおける女性描写やジェンダー観は必ずしも満足のいくものではない。ところがその中で、葉文潔という女性の存在がひと際輝いている。文化大革命に深く傷つき、絶望のあげく人類の滅亡を望む彼女は、時には冷静な殺人犯に、時には娘を失った悲しい母親に、また時には年老いた温厚な知識人になる、極めて深みのある人間として描かれている。それゆえに「男が想像した女」ではなく、実際に生きている女としての確実な手触りを感じさせる。
ちなみに、三体星人が住んでいるとされるケンタウルス座α星系は実在しているが、現実のα星系の三つの恒星のうち一つが他の二つより遥かに質量が小さいため、三体問題を構成し得ない。現実世界に住む我々はとりあえず三体星人に侵略される心配がなさそうだ。
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