この数年、子どもの学費のために風俗勤めや売春するお母さんが増えている。そう語るのは、長年にわたって貧困や介護、AV女優や風俗といった社会問題の取材を続ける、ノンフィクションライターの中村淳彦氏だ。
ここでは同氏の著書『女子大生風俗嬢 性とコロナ貧困の告白』(宝島社新書)より、48歳の“お母さん”が風俗で働き始めるようになった背景、そして彼女の考えを紹介する。(全2回の2回目/前編を読む)
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お母さんはデリヘル嬢
「5年前に主人がリストラされまして、それでこの仕事に。主人はリストラされたのと同時にうつになって、しばらく働けなくなりました。子どもが大学生で学費がかかる時期と重なったので、まだまだやめられません」
酒井美恵さん(仮名/48歳)は大塚の熟女デリヘル嬢だ。外見はぽっちゃり体型のどこにでもいる普通のお母さんという印象。誰も風俗嬢とは思わないだろう。51歳の夫、それに大学2年生の娘の3人家族、東京郊外に35年ローンで買った小さな持ち家で暮らしている。
実は、この数年、子どもの大学学費のために風俗勤めや売春するお母さんが増えている。最低賃金に張りついたパート労働が象徴するように、中年女性が対象の良質な雇用はきわめて少ない。一家の大きなアクシデントといえる夫のリストラや失業だけではなく、夫が低賃金というだけで共稼ぎしても生活は苦しく、その苦しさから逃れるため、お母さんが風俗や売春に踏み切る。さらに子どもの進学費用が重なると、もう現実を乗り切る改善策はなく、“私が風俗か売春するしかない”と多くのお母さんたちが決断している。
お母さんの売春は、夫や子どもにとっては考えられない事態だ。しかし、全国的に実質賃金が下落し、大学進学費用という大きな負担を強いられるなかで、お母さんの売春が激増していることは間違いない。もうひとつ、日本の人口ピラミッドがその異常な現象に影響している。現在、日本は70代の団塊の世代、40代後半の団塊ジュニア世代が消費市場の中心だ。風俗産業、売春業では男性客の高齢化で30~40代の中年女性にニーズがあり、今は実質的に肉体や女性性を売るビジネスは年齢の上限がなくなっている。
かつてコンビニで成人誌が販売されていたころ、筆者は男性の性のニーズを把握するために、毎月入れ替わる雑誌棚をチェックしていた。中年女性が登場する商品は、タイトルなどに「人妻」や「熟女」と冠される。2000年代半ばからコンビニの雑誌棚には“人妻”“熟女”“不倫”という文字が溢れていた。逆に、若い女性たちに冠される“清楚”“美女”“女子大生”という言葉は少なかった。