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夫のリストラと精神疾患

 所属する熟女デリヘルは「本デリ」と呼ばれる業態だ。違法である本番サービスを提供するので“裏風俗”ともいわれる。本番を提供することで一般のデリヘルと差別化され、集客やリピート客を掴むことが容易になる違法営業をする。東京・大塚、鶯谷には中年女性を積極的に採用する本デリはたくさんあり、実際にたくさんの“普通のお母さんたち”がセックスを売っている。

 美恵さんは今日も16時までの出勤だった。2人の男性客が付き、みっちりセックスを提供したという。

「主人はずっと工場で働いていました。突然、営業にまわされた。営業がやりたくないから工場で働いていたのに、できないことをやれと言われておかしくなりました。パワハラですよね。主人はパソコンがまったくできない。でも、できて当たり前という環境になって、上司にも年下の社員にも、そんなこともできないの? みたいな。どんどん追い込まれて、退職勧告で詰められて精神疾患になって辞めました」

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 夫の年収は600万円ほど。裕福ではなかったが、貧しくもなく、普通に平穏に生活していた。夫は真面目、勤勉な性格で、その会社に専門学校卒で新卒入社、入社26年目に営業所へ移動となって1年間で壊れてしまった。

「一番キツそうなときは、帰ってきても何もしゃべらない。黙って晩酌していて、何を言っても返事をしない。そのうちにやっとしゃべりはじめると、ちょっともう泣きながらしゃべりが始まる。泣くんです。もう悔しいのと、自分が情けないのもあるのと、つらいのと、いろいろあったみたい。工場のときは係長的な立場で、そのうち工場長をやってもらうからってことで営業だったけど、実際はリストラだった。飛び込み営業をやらされて、まったく結果を出せなかったようでした」

 夫は3歳年上。26歳で結婚し、28歳のときに娘を出産。一人娘は素直にすくすくと育ち、家庭はずっと円満だった。夫の精神疾患、リストラが一家に起こった初めての苦難で、しばらくどうしていいかわからなかった。

 ずっと共稼ぎで10年以上、美恵さんは近所のスーパーで働いた。時給は最低賃金で、収入は毎月4万円ほど。夫は休養と療養が必要と診断され、すぐには働ける状態にならなかった。世帯年収は650万円(夫600万円+妻50万円)から50万円になった。当時、子どもは高校1年生。大学進学に意欲があった。とても「行くな」とは言えない。美恵さんは、途方に暮れた。