新型コロナウイルスによる経済的な打撃は学生たちの生活に大きな影響を与えた。アルバイト先がなくなる、シフトが減らされる、給与の未払い…。それでも、生活のためにはお金を稼がなければならない。そんな窮地を「裏バイト」でやり過ごす女子大生も現れた。
ノンフィクションライターの中村淳彦氏は、そうした学生たちに取材を重ね、貧困と性産業の実態に迫った書籍『女子大生風俗嬢 性とコロナ貧困の告白』(宝島社新書)を上梓した。ここでは同書の一部を抜粋し、ソープで働くこと決めるまでの紆余曲折を紹介する。(全2回の1回目/後編を読む)
◆◆◆
「高級ソープで働いています。総額9万円のお店です」
平野麻衣さん(仮名/19歳)は「コロナは気にしていないし、取材場所はどこでもいいです」と言う。一人暮らしをする自宅は大学に通いやすい東武東上線沿線のようで、大学のある池袋西口まで行くことにした。
「今は高級ソープで働いています。総額9万円のお店です」
緊急事態宣言中、池袋西口の喫茶店はほぼずっと満席状態が続いていた。やってきた麻衣さんは、スラリと背が高く、清潔感のある美人だった。知性と気品があり、女優の小雪似だ。チェーンが華やかなシャネルのバッグを片手に、プレゼント用のGODIVAのチョコレートを抱えていた。ソープランドのお客さんにバレンタインチョコを渡すらしく、先ほど東武百貨店で購入したようだ。チョコレートは人によって種類を変えていた。
「出身は北海道で一人暮らしです。風俗嬢を始めたのは、大学に入って半年くらい経ってから」
19歳とは思えない品のある雰囲気で、物腰は柔らかだ。我々が何を聞きたいのか、一言二言の挨拶ですぐ察したようで話が始まった。
「家が裕福ではなくて、大学は地元か東京かで迷いました。長期的に考えると就職は東京でしたほうがいいし、折り合いの悪い父親とも離れたくて東京の大学を選びました。高校2年のときに両親は離婚して、勝手に父方につけられた。大学生になったはいいけど、父親からの仕送りはないし、学費も払ってくれる予定が全部パーになった。奨学金だけしかない、みたいな状態になりました。はい、だからです」
麻衣さんの経済的苦境も「父親のリストラ」から始まっていた。世帯主の雇用が奪われると、家族全員に影響を及ぼしてネガティブが連鎖していく。父親は現在46歳。44歳のときにリストラされたことがキッカケで母親に暴力をふるうようになった。暴力の的になった母親は精神疾患を患った。母親は仕事を休職し実家に戻った。祖母が引き取る形で、両親は離婚となった。