鮫洲と言えば、誰がなんと言おうと運転免許である。いつだったか、知り合いが「東京の人はみんな鮫洲を通ってゆく」などと言っていた。実際には鮫洲以外にも東陽町や府中にも運転免許試験場はあるので「みんな」というのは明らかに言い過ぎだが、少なくとも都心の人の多くは鮫洲で運転免許を手にすることになる。筆者はクルマも原付も免許を持っていないからどこにも行ったことはないのだが、それはともかく鮫洲と聞けばほとんどの人が運転免許試験場を思い浮かべるに違いない。
ところが、である。運転免許試験場を訪れるために鮫洲駅に行ったことがある人はたくさんいても、免許以外に何があるのか、覚えているだろうか。免許の駅、鮫洲。いったいどんな駅なのだろうか。
“免許の駅”に行ってみた
鮫洲駅は京急本線、品川駅から4つめの駅である。各駅停車しか停まらないので、鮫洲駅に行こうと思うとエアポート快特やら何やらのスピード自慢の列車をいくつか見送って、各駅停車を待たねばならぬ。といっても、各駅停車に乗ったらわずか6分で着くのだから文句をいうのもおこがましい。京急線の赤い電車は八ツ山橋でJR線を跨ぎ、北品川駅を出ると高架に駆け上がって鮫洲を目指す(実際には蒲田、横浜、浦賀などを目指しているので鮫洲はどうってことのない途中駅である)。
6分ほどかけて鮫洲駅に着く。運転免許試験場の最寄り駅と言ってもいちどにたくさんの人が押し寄せるようなこともないからなのか、あまり広い駅とは言いがたい。高架の上に細めの島式ホームがあって、その両脇に上下線の線路が走る、京急線の中でも規模の小さな駅といっていい。
ホームから階段を降りて改札を抜ける。高架下のコンコースは心なしか広いような気がするが、これもあまり免許がどうのと関係しているわけでもないだろう。まずは、試験場のある東口に出てみることにしよう。
道すがら点在する“免許試験予備校”
鮫洲駅の東口は実に小さい。駅前に広場と呼べるようなものはなく、コンコースからさらに階段を降りたところの出入り口の横には庶民的な中華料理店がある。その先には高架をくぐる路地があり、このクルマも入れないような細い道を歩いて試験場を目指すのだ。道すがら、庶民派の酒場に混じって免許試験の予備校らしきものがいくつかあるのがいかにも鮫洲らしい。
そうしてこの路地を抜けると、それなりに賑やかで人通りも目立つ商店街に出る。この道こそが、江戸時代までの東西の大動脈・東海道である。