餌の手やりはおもしろい!
しかし手で餌をやるのは断然おもしろい。3頭の個性の違いがよく把握できる。そもそも豚は、畑で出るくず野菜と家庭から出る残飯で育てるものだったのだ。
できあがりの味を左右するほど食べさせられるわけじゃないのだから、どんどんやっちゃおう。ホームセンターに隣接する食料品売り場で1袋19円のもやしや痛みかけたバナナ、お客が剝き捨てていったキャベツなどを仕入れては、1日1回やってみた。もちろん残飯も出ればやる。松ヶ谷さんに、刺激のある生姜やネギ、生の大根などはやらない方がいいと教えてもらった。
伸はどんなものでも嫌がらずに、ぱくぱくと食べる。軒先に植えたイタリアンパセリなど、少し匂いのキツイ野菜も、うれしそうに食べる。もともと中ヨーク種は、残飯を食べさせて飼っていたからなんじゃないかと、みなさんに言われた。個体差なのか種の違いなのかはわからない。
秀は対照的に、飼料をとにかく好んだ。給餌器にへばりついていて、いつも額から頭頂にかけて飼料をのっけていた。デュロックは飼料を効率よく食べるように作られているんじゃないかとすら思った。
いろいろ試してみたところ、3頭そろっての大好物は、トウモロコシだった。さすが飼料の主原料の一つだけある。ちょうどこの年は、千葉県食肉公社の有志のみなさんで、畑を借りてトウモロコシを作っていた。公社の浄化槽から出る汚泥を肥料にしたという。売っているものより小ぶりだが、生で齧っても甘くてとてもおいしい。
私に対して食べてくださいと段ボール1箱も、持って来てくださったのだ。ところが試しに豚たちにやったら、3頭とも異常なほど喜びまくって食べる。あんまりにもその姿がかわいいので、毎日3頭に食べさせることにした。
そうなるともう、私がつなぎを着て運動場の掃除をしに出てくるだけで、夢などは、しゅばっと小屋からとび出してくる。
糞を搔き取りチリトリに受けて、敷地の脇の溝まで運び、投げ捨て、土をかける。戻って来て、コンクリの床に水をかけて溝に入った糞などを流しつつ、割り込んでくる3頭たちに水をかけて、飲ませる。柵外の汚水受けにたまった糞尿混じりの汚水を、スキージで誘導し、大穴に溜める。
夏になって水をかけてやる時間が長くなると、穴に溜まる汚水もすぐに1杯になるため、ひしゃくで汚水を合併浄化槽へ汲み出す作業も日課となる。はじめの頃は糞の量も少なくてそこまで床も汚れなかったし、暑くもなかったので、毎日浄化槽に汲み出さなくても大丈夫だった。
夢と伸は、完全にこの作業の流れを把握して、私がスキージを持って汚水の誘導をはじめると、運動場をそわそわ歩き回り、私を熱く見つめる。
手を洗って、家の中に置いているトウモロコシを取りに行く頃から、キョーッキョーッと近所に聞こえるほどの大声で啼きはじめ、夢は柵に前脚をかけて立ち上がり、暴れ出す。