昭和34年(1959年)創刊の総合週刊誌「週刊文春」の紹介サイトです。最新号やバックナンバーから、いくつか記事を掲載していきます。各号の目次や定期購読のご案内も掲載しています。

2021/06/09

 トウモロコシを出そうものなら、大変だ。3頭平等にやりたいのに、夢は他の2頭に対して、バスケットのディフェンスのように立ちふさがり、体当たりし、時には嚙みつき威嚇して、すべてのトウモロコシを、我がものにしようとやっきになる。まさにジャイアン……。

トウモロコシの食べ方も三頭三様

 豚は生後数日以内に両脇の牙先を切っている。それと関連はないだろうが、3頭とも、トウモロコシを食べるのが下手だった。勢い込んでかぶりついて、私の手から奪うまではいいのだが、芯を残して実だけかじり取るという行為が難しいようなのだ。

 ぽろりと落としてしまったり、鼻で前に前にと押し出しているうちに柵の外に出してしまったりする。彼らの道具は鼻と口がすべてで、犬や猫のように前脚で押さえるということはできないようだ。3頭の中では伸が比較的上手にトウモロコシの実を芯から剝がすように食べる。

 夢はあごの力にまかせて嚙み砕き、ぼろぼろとこぼしながら食べるので、がっつく割には、たくさん食べているようにみえない。そして自分のを食べきらないまま、伸が食べているトウモロコシを、鼻で鼻にきついパンチをかまして奪い取る。よせばいいのに伸は馬鹿正直に反応して、弱いくせにキイキイと啼き叫びながら夢に立ち向かう。

©iStock.com

 トウモロコシは、途中からどこかに飛び去ってしまう。それを拾いながら差し出すと、また2頭がお互いにタックルをかましながら寄ってきて、奪還しようとする。興奮してくると、夢は伸の股座に鼻面を差し込み、伸の腰をひっくり返すという荒技も披露する。

 2頭が不毛な大喧嘩をしている隙をついて、秀はすっと頭を私につき出し、はぐり、とトウモロコシを咥えた途端に、すすすすすっと後ずさりして小屋の中へと入ってしまう。その間、夢からマークされることもない。

 そうして前に前にと転がるトウモロコシを、壁に押し付けるという技を発揮して、ひとりひっそり、ゆっくりと、トウモロコシを齧るのだった。よく食べるだけでなく、喧嘩をほとんどしないのだから、エネルギー消費も3頭中でいちばん低い。人間にもこういう省エネタイプ、いるよなあ。

 私の言葉に反応したり感情を表に出すことはあまりなくて鈍重な感じがするのだけれど、この豚はなかなか堅実なのではないか。伸はといえば、夢に絡まれ、無駄に抵抗してエネルギーをすり減らしてばかりいる。他の2頭にくらべて2回りも大きいのに、なかなかそれ以上大きくならない。

 3頭が来た当初、いちばんのボスは秀かと思っていた。ボスは給餌器のいちばん近くに寝ると教わっていた。たしかに秀はいつも給餌器の真ん前に陣取っていたのだ。

 一つの房内に20頭近く飼う場合、給餌器の周りにボス集団が陣取り、いちばん弱い豚は給餌器に近づくことができずに瘦せこけてしまうこともあるという。うちにつけた給餌器は幅が70センチほどで、一度に2頭しか頭を入れることができない。つまり1頭があぶれてしまう。3頭しかいないんだから、給餌器にまるで近づけない、ということにはならない。外で夢か秀が昼寝している隙に、食べれば良いのだ。大した障害にはならないだろうと思っていた。

z