家を借り、豚小屋を作り、品種の違う3頭の子豚を育て、屠畜し、食べる……。イラストルポライターの内澤旬子氏は、生き物が生まれてから肉になるまでの過程を自身で経験したいと考え、実行した。
ここでは同氏の稀有な体験をまとめた著書『飼い食い 三匹の豚と私』(角川文庫)の一部を抜粋。「豚」が「肉」になるまでの生々しい過程を紹介する。(全2回の2回目/前編を読む)
※本稿にはショッキングな表現が含まれます。ご注意下さい。
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豚1頭からどれぐらいの肉が取れるのか?
料理人がきまったところで、誰にどれだけの肉をお願いするのかを考えねばならない。そもそも豚1頭から取れる肉はどれくらいあるのか。内臓、頭、肢も計算しなければならない。
夢(編集部注:三元豚の豚につけた名前)を切り分けてもらう、旭食肉協同組合の仕事場を見学させていただいた。驚いた。あっという間に肉が骨から外され、分けられていく。しかもほとんどの部分が手作業だ。アメリカのエクセルミートで見たような、オートカッターで肉をぶつ切り、というのとはまるで違う。
針金のようなものを引っ掛けて、あばら骨と肉を一つずつ引きはがすところなぞ、実に繊細。なのに、早い。骨に僅かの肉もつかないように、1ミリグラムたりとも無駄にすまいとする、その手さばきに圧倒された。
通常の肉豚の生体重をおよそ110キロとする。豚の種類や育て方によってこの先の数値はどんどん違ってくるのだが、見積もりを出さねばならないので目安として平均重量を聞いてみた。頭と肢先を落とし、皮を剝き、内臓を落として枝肉になると、およそ75キロ。
ここから骨を取り除き、余分な脂肪と腎臓を取り除いたところで54キロ。これを部分肉という。さらに筋や脂肪、くず肉などを取り除いて小割りにしたりスライスしたりしてほぼ私たちの口に入るような状態にしたものが、精肉だ。およそ51キロ。
生体重から計算すると「肉」として出回るのは半分以下ということになる。しかし肉を筋肉と言い換えれば無理もないかとも思う。哺乳類は筋肉だけで生きているわけではない。
しかも豚を110キロまで育てるのにその3倍、330キロの餌を食べさせている。肉はエコロジカルな食品ではないから食べるのをやめるべき、と主張している団体の言うことも、わかる。ちなみに牛の場合は650キロの体重の3割である、202キロしか精肉は取れない。
ただし、肉は美味い。私たちの生活文化に深く入り込んでいる。すべての人が地球環境のためを思って、植物だけを食べて生きる暮らしにシフトできるかといえば、非常に難しいのではないかと思う。