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 夢の肉は、モモの1本は骨付きのままフレンチに、1本は骨を抜いて1キロずつに分けて韓国料理に、ロースのサーロインの方はフレンチで、3キロは1キロずつに分けて韓国料理に、残りはスライスしてイワトに(編集部注:著者の内澤さんは自身で育てた豚を食べる会を企画した。イワトとは開催地である「シアターイワト」のこと)、腕は1本はネックつきでフレンチに、1本は骨をはずして挽いてタイに、というように、それはそれは細かく細かく、切り方の指定を入れることとなった。しかし指定したものが上がったところで、どれがどの部分の肉だかは、まるでわからない素人。カットに立ち会ってその場で仕分けしなければならない。東総食肉センターは立ち会いが難しいため、夢の肉だけ旭食肉協同組合にお願いすることとなった。この複雑な相談を夢の目の前でした後で、やつはハンストを起こしたのだった。

 それにしてもバラバラにする3頭の送り先がバラバラなら、カットするところもバラバラ。私の頭もバラバラになる寸前で、当時、一体どうやって連載原稿をあげていたのか、まったく記憶が抜けおちている。

まだ言葉にできない

 話を屠畜に戻そう。吊るされた3頭は、つるつるとオンレールにのって進み、腹を開かれ、内臓を落とされ、あっという間に頭も切り離された。岡田さんたちが頭をもらってビニール袋に入れていく。エアナイフでの皮剝き工程のところで、チャイムが鳴り響いた。5時だ。ああ、終業時間。

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 皮剝き機に寝かされ、くるりと回して皮が剝ける。頭もなく、スプレー書きした名前も皮とともになくなった。後はくず脂などを取って整形して、背割りと洗浄。

©iStock.com

 枝肉になるまで、あっという間だった。工程はよくわかっているつもりだったけど、バラバラに落とされていくものを拾おうとすると、あまりにも早くて、気がついたら枝肉、という感じだ。

 いつのまにか内藤さんが、検査の済んだ内臓を手にやってきて、頭と肢の処理を職人さんに頼んでくださった。その場のあうんの呼吸である。もう5時過ぎているのに。ごめんなさい。

 え、皮も……といいつつも、みなさんで大きな容器にためたお湯の温度を正確にはかり、頭や肢をドブンと漬けては取り出して、毛を擦るようにして毟っていく。早いなんてもんじゃない。素晴らしい手技に、みんなでうっとりと眺める。さらに仕上げにカミソリで丁寧に残った毛を取ってくださった。

 冷蔵庫に運ばれた枝肉を前にして、内藤さんから改まって「内澤さんの感想が聞きたい」と言われて、戸惑った。

 バラバラになっていく3頭をかき集めるのに必死で、何もまともに考えられなかった。言葉が一つもでてこなかった。内藤さんをはじめとする、関わってくださった千葉県食肉公社の作業員、衛生検査員のみなさん全員にただひたすら頭を下げて、お礼を言いたい。それだけだった。

 3頭を肉にしたことをじっくり考え、言葉にできるようになるまでには、まだまだ時間が必要だった。

【前編を読む】飼い、つぶし、食べる…3匹の豚とのスゴすぎる共同生活を徹底ルポ!「同じ豚なのになんでこんなに違うんだ?」

飼い喰い 三匹の豚とわたし (角川文庫)

内澤 旬子

KADOKAWA

2021年2月25日 発売