そして頭。夢と秀(編集部注:デュロック豚につけた名前)をタイ料理に、伸(編集部注:中ヨークの豚につけた名前)をフレンチに回すことになったのだが、フレンチはテット・ド・フロマージュ。タイ料理は内臓3頭分といっしょにスープにしてくれることになった。どちらも皮つきでないと駄目だ。皮にはぷりぷりのゼラチン質が含まれている。
味も食感も皮があるとないでは違ってしまう。そもそもほとんどの国の豚は湯むきして、皮も食用にする。皮あっての料理がたくさんある。日本の業者に処理してもらうと皮をそぎ切りにしてから肉を取ることになる。
じゃあ、頭をそのまま送ってもいいですかと聞くと、さすがに毛がもじゃもじゃついたのは、タイ人でも難しい、と家坂さんに言われた。市場で売っている豚の頭は、きれいに毛を湯むきしたものなのだ。
フレンチのセンダさんは、鴨の羽むしりすらも拒否した人。料理はできても、そっち方面は苦手な人なのだ。「私(センダさん)の方でやってみます」と言いながらも、声が震えている。
しょうがない、私が公社からもらって帰って来たのに、お湯ぶっかけてやりますよ。散々外国で見てきているから、できないということはあるまい。しかし、何時間かかるかなあ。そりゃプロがやればすぐだけど、私は素人。
鴨で2時間かかったのだ。3頭分で徹夜になるかなあ。屠畜した後の仕分けや送付の手間を考えると、3頭を食べる前に過労死しそうだ。肉も内臓も新鮮な状態を保つためにも、殺した後は、ノンストップで処理して料理人の手元に届けなければならない。こんなことを思い付いた自分が、ほんとうにほんとうに、憎い。
私が分配と送付先の手配にキリキリと頭を痛めていた屠畜の前日、千葉県食肉公社の内藤さんから電話がかかってきた。
「あのさあ、内澤さんの知り合いだって人から頭の処理について電話が来たんだけど」
なんと、フレンチのセンダさんが頭の処理について悩んだ末に、私には何も聞かずに、自分のレストランの仕入れ先である肉屋に問い合わせ、肉屋が卸業者につなぎ、さらにいくつかの業者を経て、まわりまわって千葉県食肉公社にたどり着いてしまったのだ。彼は内藤さんに、
「何とか頭の湯むきをやってもらえないか」と頼んでくださったのだ。
芝浦でも厚木でも取手でもなく、よくもまあ、ちゃんと千葉の公社にたどりついたな、センダさん。驚いて言葉を失っていると、内藤さんが、
「俺の方で何とかしてやる」と言ってくださったのだ。ええーっいいんですか? ほんとうに大丈夫ですか? と聞いても、
「大丈夫、何とかするからまかせろ」と言うのみ。
じゃあお言葉に甘えます。そういえば皮も毛を取らなきゃならないんだ。ついでにお願いしよう。
細かく細かく指定して
秀と伸の肉は、食べる分の4キロ(バラ1.5、ロース1.5、モモ1)はスライスしてもらい、それ以外は骨を外した状態で、1キロずつ切り分けて真空パックしてもらう。こちらをお願いするのは千葉県食肉公社に直結した東総食肉センター。中ヨークの販売を手掛けているところだ。